第4話 傲慢
あれから先生に色々言われ、朝のほーむるーむ? とやらは終了した。
するとすぐに、美雪に連れられて教室から抜け出した。
……美雪と手を繋いで、美雪と隣に並んで歩く。
そんなことも平然と出来る現状に、私は高揚感に満たされた。
外に出ると、美雪は私を見て、訝しむように目を細めた。
「……それで、シロ……なんだっけ?」
「うん。そうだよ!」
私が答えると、美雪は呆れたようにため息をついた。
しまった、何かやらかしたか!?
焦っていると、美雪の綺麗な唇が開いた。
「私の中でのシロは犬なんだけど……」
「うん。犬だったよ!」
「……貴方みたいな可愛い女の子じゃないんだけど」
「えへへ~」
美雪に褒められた。
その事実だけで私の顔は緩み、だらしない表情になる。
すると、美雪はなぜか突然ため息をつき、頭を横に振った。
……?
「色々聞きたいことがあるんだけど、まず、なんでそんな姿に?」
「んっとねー、死んじゃった時にねー、すごく偉そうなオジサンが出てきてねー、動物の身でそれだけ未練を持った者は初めて見たー、お前にチャンスをやるー……って言われたの」
「はぁ?」
どうやら分かりにくかったようだ。
まぁ、私も自分の中で纏まらないまま話してしまったから。
だから、私は美雪に分かりやすいように、出来るだけ一生懸命話した。
全てを聞き終えると、美雪はポカンとした顔をしたまま固まった。
「まぁ、大体の事情は分かった。じゃあ次の質問。シロは、今どこでどんな生活をしているの?」
「えっとねー、おうち無いよー」
「……は?」
私の言葉に、美雪は口を開けて固まった。
……そうだよね。
何言ってるんだコイツって……なるよね?
だって……私だってそうなんだから。
私は初めて……嘘をついた。
分かっている。
生活で困らないようにと、最低限の知識はあるのだから。
その中に……家についての知識もあった。
私はどうやら、美雪と同じ家に住むことになるらしい。
私、白田仔犬という存在は、美雪のイトコという見解のようだ。
しかし色々と諸事情があり、一緒に住んでいるという設定。
でも……私は知らないフリをした。
なぜだろう?
もしかして……美雪に心配されたかった?
美雪にもっと、構ってほしかったから?
もっとその目に私を映して、もっと私をその記憶に刻み込んで、もっと……私を、見て欲しかった。
自分でもよく分からない感情。
美雪に迷惑を掛けて、自分に集中して欲しいという……欲求。欲望。
傲慢な、醜い願い。
でも……――
「それじゃあ最後の質問。……シロの未練は何?」
――貴方はそれを、受け止めてくれた。
否定せず、私のワガママを受け止め、抱きしめ、呑み込んでくれた。
それはつまり、私を認めてくれたということですか?
私が貴方の傍にいても良いということですか?
その事実だけで、私の心はドロドロに溶け、醜い感情の濁流となって私の心を満たす。
あぁ、美雪。
好きだよ美雪。
大好きだよ美雪。
愛してるよ美雪。
どんなに安っぽい言葉を並べても。
どんなに陳腐な単語を羅列しても。
私の気持ちは表せない。
私の愛情は満たせない。
それくらい、私は、美雪のことが好きだから。
「美雪!」
だから、私の答えは決まっていた。
私の未練は、美雪、貴方です。
貴方を独りにしたくない。
貴方の傍にいて、ずっと守っていたい。
貴方は私に、たくさんのものをくれた。
だから、それを返してあげたい。
私は貴方が……好きだから。
「……は?」
「私ね、美雪のこと大好きだから! それに、美雪にはたくさんお世話してもらった! だから、私、美雪に何か恩返ししたいの!」
「……鶴の恩返し?」
美雪の言葉に、私の脳裏に日本昔話の鶴の恩返しが浮かぶ。
……違う。あんなのじゃない。
あの鶴みたいに、私は少しの理由で美雪から逃げたりしない。
たとえ許されなくても、私は美雪の傍にい続ける。
美雪を独りにしないために。
「つる~?」
「……いや、シロは犬だから、犬の恩返しか……」
真剣な表情でそんなことを呟く美雪すら愛おしく思えて、私は自分の股間部に水気を感じた。
手が届く距離に美雪がいる。
美雪と同じ目線に立てる。
その事実だけで、私は、気持ちが高揚し体が熱を持つのを感じた。
しかしその時、扉が開いた。
私達が出て来た扉だ。
見るとそこには……一人の、黒髪の少女が立っていた。




