第3話 人間
「……!?」
目を覚ますと、それは、どこかの廊下? だった。
ここは一体……? と不思議に思っていると、目の前にいる男がこちらに振り向いた。
「それじゃあ、俺が入ってきてって言ったら、入って来いよ」
「え、はい……」
そう返事をした瞬間、私は自分の手を押さえた。
え、今、私……喋って……?
そう思いつつ口から手を離した時、私は言葉を失った。
私……人間になってる……?
「ッ……!?」
自覚した瞬間、様々な知識が頭に流れ込んで来た。
それは、人間としての常識だとか、生活の中で困らないようにするための諸々。
あとはこの学校で授業として習うこととかそういうの。
それが一瞬で入って来たから、頭痛がして私は頭を押さえた。
「それじゃあ入って来て」
その時、教室の中から声がした。
私は反射的に扉を開け、中に入った。
中にはたくさんの人達がいて、全員が私を観察していた。
横目にそれを見ていた時……彼女を見つけた。
美雪だ!
彼女を見た瞬間、世界が輝いた。
胸が熱くなって、気持ちが昂る。
美雪だ。美雪が目の前にいる。また美雪に会えた。
それだけで胸が熱くなり、喜びで満ち溢れる。
「それじゃあ、彼女は今日から転校してきた……」
「白田 仔犬です! 今日からよろしくお願いします!」
恐らく自己紹介の時だったからだろうか。
私の頭には自然と人間としての自分の名前が過り、すぐにそう答えていた。
白田仔犬……それが、私の人間としての名前……。
なぜこの名前なのだろうか、と少し考えて、思い出す。
犬だった頃に、もし自分が美雪と同じ人間だったらって考えたことが何度かあったんだ。
シロって名前だったから、白は入れて……人の会話を聞いて覚えた単語の中で、私が拾われた場所が田んぼの近くだったのを覚えていたから、白田。
仔犬は、そのまま……犬。
その想像が今、現実になった。
胸が熱くなるような感覚を覚えながら、私は、すぐに美雪の元に駆け寄った。
美雪の顔を覗き込み、目の前にいる美雪が本物であることを改めて確認する。
匂いを嗅ぐと、美雪の匂いが鼻孔をくすぐる。
どうやら、犬だった頃の嗅覚は、美雪に対しては発動するようだ。
「ちょっ……!?」
「やっぱり! 美雪だ!」
「へ……? ちょ、白田さん……!?」
「岡井 美雪! でしょ?」
「なっ……!?」
どうやら、美雪はまだ気付いていない様子だ。
それもそうか。犬から人間になったのだから。
気付く方がおかしい。
だから私は美雪の手を握り、笑って見せる。
「えへへっ。美雪分からない? シロだよ!」
「え……?」
不思議そうな顔をする美雪に、私は両手で自分の顔を指さし続けた。
「だからぁ、昔美雪に飼われていた、白犬シロだよ!」
「……えええ!?」
美雪の声と、学校のチャイムが見事にシンクロした。




