第23話 現実逃避
「実は、私とクロは……今日から、付き合うことになりました」
美雪さんの言葉に、私は、白田さんのこととか放っておいて顔が熱くなってしまった。
しかし、皆の前で宣言など恥ずかしかったので、「ちょっ、美雪さんっ……」と慌てて止める。
その時だった。
「えっ、付き合うことになったって……いつの間に?」
震えた声が聴こえ、私は視線を向けた。
見ると、そこには、青ざめた顔で美雪さんを見る白田さんがいた。
それを見て、美雪さんは笑みを引きつらせた。
「……さっき観覧車に乗った時に」
美雪さんの言葉に、白田さんはさらに顔を歪める。
しかし、その歪んだ顔で強引な笑みを浮かべ、「おめでとう」と言った。
その後で自分の顔を思い切り叩き、ごく普通の、自然な笑顔を浮かべた。
「良かったね! 美雪、黒田さんのこと、大好きだったもんね!」
「シロ……」
「仔犬お姉ちゃん……」
美雪さんに続けるように、美香さんが白田さんを呼ぶ。
……彼女は、白田さんに対してどんな感情を抱いていたのだろうか。
もしかしたら、白田さんに……恋をしていたのかもしれない。
そして白田さんは、美雪さんのことが好き。
美雪さんが私と付き合うことで、今の白田さんはすごく悲痛そうだ。
そんな彼女を見て、美香さんはどんな感情を抱いたのだろうか。
……考えたくもなかった。
「えっと……もうそろそろ帰りませんか? 日が暮れてきましたし」
だから……私は逃げた。
あぁ、そうさ。私は卑怯な人間だ。
自分が見たくないものからは逃げる。
結局私の人生……逃げてばかり。
現実から逃げて、本に読み耽った人生。
何度も現実から目を背け、都合の良い空想上の世界に逃避した。
「……私の家、こちらなので、お先に失礼します」
そしてまた、私は逃げた。
情けない。卑怯者。意気地なし。
そんな風に罵倒されても、きっと反論なんて出来ない。
でも……しょうがないじゃないか。
今まで、そうやって自分を守ってきたんだ。
そうやって……私という存在を保っていたんだ。
美雪さんが気を遣って送ろうとしてくれたけれど、それも断った。
……美雪さんからも、逃げた。
これからどうするべきなのかも分からないまま。
これから……何をするのが良いのだろう。
何をするのが……真実なのだろう。
分からない。
分からない。
……分かりたい。
私は……どうすれば良いのですか?
「ッ……」
しばらく歩いていた時、美雪さんからハンカチを借りたままということに気付く。
しまった……洗濯して返すにも、せめて、一言いるのではないか。
あの修羅場に戻るのはかなり辛いものがある……だが、流石に無言で借りっぱなしというわけにもいかない。
私は踵を返し、先程歩いて来た道を戻った。
「私が好きなのは……美雪だよ」
しかしそんな白田さんの声が聴こえ、私は足を止めた。




