第21話 ハッピーエンド
「美雪さん。私の……恋人になってください」
私がそう言った瞬間、美雪さんはピクリとも動かなくなった。
もしかしたら世界の時間が止まったのでは、と考えたが、椅子から伝わる機械の震動がそうではないことを知らしめる。
美雪さんは何度か口をパクパクとさせてから、掠れた声を発した。
「えっ……と……」
それは、戸惑いの声。
もしかしたら迷惑だったのかもしれない。
そう考えると、途端に不安になり、私は俯きそうになる。
しかし、それより先に、彼女は続けた。
「なんで、私、なんか……!」
なんで……?
それはつまり、私が彼女をなんで好きになったか……ということか……?
そう考えた瞬間、自分の顔が熱くなったのが分かった。
「なんで、って……」
声にして伝える。
それが、物凄く難しいことのように感じた。
しかし、目の前にいる美雪さんを見た瞬間、少しだけ肩から力が抜けた。
あぁ、そうだ……。
私は、一体何を迷っていたのだろう。
彼女がいれば……なんだってできる。
……告白も……。
「私……小さい頃から、友達って、いなくて……皆どこか、心の距離を、感じて……」
なんとか、声を振り絞る。
けど、やっぱり少し怖いから、私は彼女の手に自分の手を重ねた。
冷たい手。
その冷たさが、私の体温と一緒に緊張をも吸い取っていくような気がして……安心した。
私は一度小さく深呼吸をして、続ける。
「でも……美雪さんは違った。美雪さんは……対等に接してくれた」
「そんな、対等なんて……」
「……少なくとも、私にとっては……初めての友達でした」
私の言葉に、美雪さんの顔が少しだけ歪んだ。
それに胸が痛くなって、私は彼女の手を強く握った。
離したくなかった。離れたくなかった。
「私……最低ですよね……そんな大切な友達に……こんな感情を抱くなんて……」
「……そんなこと……」
「でも……好きなんです……美雪さんのことが、好きで好きで、堪らないんです……だから……―――ッ!」
だんだん上手くまとまらなかった私の言葉は、遮られた。
……美雪さんの、唇によって。
言葉を紡ぐ口で、言葉を遮る。
男性を愛すべき女性同士での……口付け。
矛盾だらけの行為。しかしその一瞬が、私にとっては、すごく心地よいものだった。
やがて、唇を離すと、美雪さんはフッと微笑んで私を見ていた。
「……私から、言いたかった……」
美雪さんの言葉に、私は喉を詰まらせた。
すると美雪さんは私の頬を撫でて、続けた。
「私もクロのこと……大好きだよ」
「ッ……」
美雪さんからの告白に、私は自分の口を手で押さえ、少しだけ身を引いた。
すると美雪さんは優しく笑って、私の体を抱きしめた。
彼女の胸元に顔が辺り、心臓の音が直接聴こえてくる。
それに、私は彼女の体を抱きしめ返した。
すごく、幸せな場面。
物語なら、ここでハッピーエンドを迎えても良いハズの瞬間。
それなのに、美雪さん。
貴方ははぜ……悲しそうに笑うのですか?




