第8話 着替え
ひとまず美香の言葉から察するに、私の部屋は私とシロの共同部屋になっているらしい。
彼女が嘘をつくとは思えないので、恐らくそれは真実なのだろう。
私はシロを連れ立って、二人で私の部屋に向かった。
「ここが美雪の部屋~?」
私の部屋まで行くと、シロはそう言って首を傾げた。
彼女の言葉に、私は頷く。
「うん。まぁ、今日からシロの部屋にもなるみたいだけど……」
そう言いながら扉を開くと、私は言葉を失った。
だってそこは、今朝まで生活していた部屋とは別物だったから。
仲良く並べられた二つの机。全体的に部屋も少し大きくなっている気がする。
しかし、ベッドは一つだけだ。そしてそれは、私が何度も見慣れたもの。
ではシロの寝床は? そう思い、ためしに壁に備え付けられている押し入れを開くと、中に布団一式が入っていた。
なるほどね。シロは床で寝ろ、と。
「美雪のベッドだ~」
……私が床で寝るか。
大喜びでベッドに飛び込んでいるシロを見ていると、この布団を敷いて床で寝ろとか言えない。
私は無言で押し入れを閉じて、勉強机の上に鞄を置いた。
「ホラ、シロ。制服がしわくちゃになるから、先に着替えるよ」
「はぁーい」
私の言葉にシロは立ち上がり、テクテクと私の方まで歩いて来る。
ひとまず私はクローゼットを開け、服を……。
「……シロの服もあるんだ」
クローゼットを開けば、半分に分けるように、右側に見慣れた服が収納されており、左側には見慣れない小さめの服が同じようにしまってあった。
同じようにクローゼットを覗き込んだシロは、首を傾げた。
「本当にシロの存在が組み込まれてる……全部神様の力?」
「私難しいこと分かんなーい」
能天気な口調で言うシロに、私は息をつく。
まぁ、その方がシロらしいとは思うけどね。
「まぁ、とりあえず着替えよう? 話はその後」
私はそう言いつつ、セーラー服を脱いでいく。
しかし、微動だにしないシロに、私は上半身の服を脱いだところで手を止めた。
「シロ?」
「美雪ぃ……服の着方とか分かんない……」
「はぁ!?」
弁当食べる時、箸はあんなに器用に使っていたじゃないか!
しかし、涙目でこちらを見上げるシロを責める気は起きない。
私は何度か口をパクパクさせるが、言葉が出てこずに、すぐに諦めて息をついた。
「分かった……着替えさせてあげるから、両手挙げて」
「うぅ……美雪ごめんなさい」
そう言いながら手を挙げるシロ。
私はまず胸元のボタンを外し、スカーフを外す。
クローゼットの中にあるハンガーにそれを掛けて、いよいよセーラー服そのものだ。
袖口が少し窮屈だったのでボタンを外し、ゆっくり脱がせていく。
思いのほかあっさり脱がせることが出来て、シロの上半身は白いインナー一枚になる。
「スカートは……」
「……」
「無理、だよね」
相変わらず涙目のシロに私はため息をつき、スカートのホックを外した。
すると、スカートは重力に従って、床に落下する。
シロにその場から離れさせて、私はスカートを拾って専用のハンガーでクローゼットに掛ける。
「えーっと、服を着ることは……」
「……」
「だよね」
涙目で訴えないでください。
私はクローゼットから、適当にズボンとシャツを取り出し、シロに着せて行く。
なんだろう……子守りをしている気持ちになる。
私の肩に掴まらせながらズボンを履かせ、シャツを着せる。
自分で選んでおいて何だけど、こんな天使みたいな美貌を持っているシロに、ズボンとシャツだけっていうのは少し微妙すぎたか?
「えへへ~。美雪ありがとう!」
……まぁ、本人が嬉しそうだから、良いか。
私はシロの頭を一度軽く撫でてから、自分の着替えを始めた。
これから彼女には服の着替え方を覚えてもらわないと……。