第18話 相応
「お嬢さん達、女二人で暇してるでしょ? 俺等と一緒に遊ぼうぜ」
そう言ってきたのは、髪を茶色く染め、顔や耳などに幾つものピアスを付けた男だった。
喋る度に舌に金属特有の光沢が煌く。
恐らく、舌にもピアスを付けているのだろう。
彼の言葉に美雪さんはその目に不快そうな感情を浮かばせた。
「暇? 私は別に暇ではありませんが?」
ひとまずそう返してみると、なぜか男性二人は美雪さんを見た。
すると美雪さんは微かに目を見開いた。
……?
「マジか……マジもんの百合か……」
「萌えぇ……」
百合……?
そういえば、女性同士の恋愛を百合と言う……というのを、どこかで聞いたことがある気がする。
タイミング的に、彼等は私と美雪さんがそういう関係だと勘違いしたようだ。
しかし、一体なぜだ……?
「いえ、私達はそういう関係ではありません」
なぜ勘違いされたのか考えている間に、美雪さんが否定する。
すると二人は安堵したような、もしくは落胆したような、曖昧な感じの表情をした。
それに美雪さんは眉を潜めつつ、続ける。
「えっと、それに、今他に友達と来ていて。……今は私の体調が悪くて、この子にはそれに付き合ってもらっているだけです」
「そうなんだ。だったらさ、俺達も友達呼ぶし、皆で一緒に遊ばない?」
髪を金色に染め、耳にピアスを付けた男の人がそう言った。
彼の言葉に、美雪さんは眉間に皺を寄せ、グッと強く拳を握り締めた。
しかし、それでも彼女の表情にほとんど差異は出ない。
私か白田さん以外の人が相手だと、やはり鉄仮面のままなのだ。
「美雪~! さっきそこでね、美味しそうなものが売ってる屋台を……」
そんな声が聴こえ、私はハッと視線をそちらに向けた。
見ると、そこには棒状のお菓子を持って駆けてくる白田さんの姿があった。
彼女は美雪さんと男の人達の顔を見た瞬間、無表情になった。
……棒状のお菓子折れましたよ?
私達の視線から誰かが来ることに気付いた男の人達は、白田さんを見て口笛を吹いた。
「へぇ、可愛い子だね。君もこの子達の知り合……」
「邪魔」
そう言って、白田さんは金髪の男の人の靴を踏んだ。
華奢な体だが、その力は強かったようだ。
その証拠に、男の人は「ひぎッ!?」と声を漏らした。
それから足を押さえ、痛い痛いと喚き始める。
……大の男が情けない。
呆れていると、美香さんが美雪さんに駆け寄った。
「お姉ちゃん。これ、どういう状況?」
「分からない……」
「ふざけんなこのクソアマ! この靴がいくらしたと思ってるんだ!」
金髪さんの言葉に、岡井姉妹は同時に身を引いた。
まぁ、確かに、あの程度のことで怒るのは男としてどうかと思う。
とはいえ、ここで大事になってもまずい。
白田さんにはそろそろ身を引いてほしいところ。
「うるさい。邪魔だからどこか行ってよ」
しかし、白田さんはむしろ攻撃的な言葉で責める。
それに美雪さんは流石にまずいと思ったのか立ち上がり、仲裁に入る。
白田さんの頭を強引に下げさせ、自分も頭を下げる。
「この度は、私のイトコがご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「みゆッ……」
「シロッ!」
美雪さんに止められ、白田さんは不満そうに俯いた。
二人のやり取りに、金髪の男の人は舌打ちをした。
「なんか気分悪くなったし、もう行こうぜ」
茶髪さんの言葉に金髪さんは応じ、歩いて行く。
するとようやく美雪さんは顔を上げ、白田さんの頭を離す。
「……なんでアイツ等に頭下げないとダメなの」
そう言ってムスッとする白田さん。
彼女の言葉に、美雪さんは「どうしても」と答えた。
すると、白田さんはさらに不満そうな表情をした。
このままでは納得しなさそうなので、私が間に入る。
「白田さん。この件に関しては美雪さんの判断が正しいです」
「なんでッ……」
「相手は男性、こちらは女性です。人数の差はあれど、力では太刀打ちできません。あのまま美雪さんが仲裁しなければ、こちらが酷い目に遭ったのは確実ですね」
「私も花織お姉ちゃんの言葉に賛成。あの男の人達がどういう人なのかは知らないけど、下手したら、女の子にも普通に手を上げる屑だったかもよ?」
私に賛同するように、美香さんが間に入る。
すると、白田さんはますます不満そうな表情をした。
このままでは本当に納得しないのでは、と危惧していたところで、美雪さんが白田さんの頭を撫でた。
「でも、私はシロが来てくれて嬉しかったよ?」
「……ホント?」
「うん。正直言葉じゃ解決するか分からなかったし。……来てくれてありがとう」
美雪さんの言葉に、白田さんはパァァァと顔を輝かせた。
……なんだ。
ただ、美雪さんに認められたかっただけなのか。
私はそう一人で納得し、自分の手を見つめた。
……私は、最初からあの場にいたのに、何も出来なかった。
こんな私なんかに、美雪さんと一緒にいる資格は無いのではないか。
私なんかより……白田さんとかの方が、本当は美雪さんと一緒にいるのに相応しいのではないだろうか。
一度悩んだその思考は、私の中でグルグルと渦巻き、そして……沈んでいった。




