第14話 選択
フワッとした浮遊感と共に、意識が微睡から浮上する。
それとほとんど同時に、目に激痛が走った。
「ッ!? いだだだッ!?」
情けなく声をあげながら、私の意識は覚醒する。
いや、それどころじゃない。
言葉に出来ない激痛が目に走り、私はしばらく悶える。
目から涙がボロボロと流れ、コンタクトレンズを外そうにも上手く外せそうにない。
私は目の前が霞む中部屋を飛び出し、風呂場で洗面器に水を張り、その中に顔を突っ込む。
何度か瞬きをしていると、コンタクトレンズが外れた。
水から顔を出し、私は息をつき湿った前髪を手で掻き分ける。
「……髪、乾かさないと……」
まだ残る痛みに目を細めながら、私は呟く。
ていうか、何も見えない。
色しか認識出来ない状態。
私はギリギリ認識できる壁を手探りで探し出し、そこに手を当てる。
そのまま壁伝いにフラフラと歩き、なんとか自室に辿り着く。
またもや手探りで机の上に置いてある眼鏡を手に取り、装着する。
ようやく景色がハッキリして、私は息をついてその場にへたり込んだ。
「……私次第、か……」
なんとなくそう呟き、私は自分の手を見つめた。
……私が選び、私が未来をつかみ取る。
美雪さんが私のことを好きだと言うのなら……すでに、私の恋は叶ったようなもの。
しかし、「じゃあ付き合いましょう」「はいそうですね」というのはなんだか……嫌だ。
私だって、一人の乙女。ちゃんとした正式な場で告白したいものだ。
しかし……どうしたものか。
そんな悩みが、一瞬で解決する出来事があった。
それは、いつものように自分の席で本を読んでいた時のことだった。
読んでいた小説は、近々映画化する恋愛ライトノベルだった。
よくあるような王道ものだが、これが中々面白くて、つい読み入ってしまう。
ちょうど主人公が観覧車の中で告白の返事をして、めでたく二人が結ばれたシーンを読み終わった時だった。
目の前に誰かが立ったのは。
「く、クロ……」
「はい?」
返事をしつつ顔を上げると、そこにはなぜか引きつったような笑みを浮かべる美雪さんの姿があった。
特定の人物の前でだけ感情表現豊かになる美雪さんは、相変わらずのぎこちない笑顔で、「えっと、何を読んでいるの?」と聞いてきた。
休憩時間に話かけてくるなんて珍しいことなので驚きつつ、私は小説の表紙を見せた。
それを見て、美雪さんは微かに目を丸くした。
「これは……恋愛小説か」
「はい。テレビのCMで見まして。なんとなく興味があったので読んでみたのですが、中々面白いですよ」
私の言葉に美雪さんは感心したように頷きながら、本を手に取りペラペラと捲る。
少し文章を読んだ後で、顔を上げた。
「あ~。これ、妹が漫画持ってたよ。小説も持っているんじゃないかな」
「そうなんですか?」
「うん。私も漫画なら読んだことある。確か、最後は遊園地の観覧車の中で主人公が告白の返事をするんだっけ?」
まさか美雪さんが知っているとは思わなかった。
私が「そうなんですよ」と答えると、美雪さんは緩く笑いながら口を開いた。
「良いよねぇ。観覧車の中で告白とかそういうシチュエーション」
「そう、なのですか?」
「えっ……恋愛系の創作物だと、割と王道じゃない?」
「そうは思いますけど……実は私……今まで、遊園地に行ったことすら、無くて……」
そう答えた瞬間、美雪さんの目がキラキラと輝いた。
予想外の反応に、私は面食らう。
「え、そうなの!?」
「はい……恥ずかしながら、今まで一度もそういう場所には行ったことがなくて……」
「へぇ……だったらさ、一緒に行かない?」
美雪さんの言葉に、私はポカンとした。
すると美雪さんは優しく笑って、続けた。
「今度の休日、暇?」




