表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬の恩返し  作者: あいまり
黒田花織編
72/132

第12話 おとぎ話

 あれから白田さんに尋問した結果知った情報は……正直、信じがたいことばかりだった。

 だって、そんな話……おとぎ話でしかありえないような話だ。


 だってそうでしょう?

 白田さんは元々、美雪さんに飼われていた犬だった……なんて。

 なんだか神様に気に入られ、人間として転生した。

 全てはそう……白田さんの未練を解決するために。

 そんな話、信じられない。


 しかし、目の前にいる少女が嘘をついているようには思えなかった。

 今この場で嘘をつくメリットがない。

 しかもこんな……すぐにばれそうな嘘を。

 つまり……事実。


「……それで、その未練というのが美雪さんであると?」

「……そんなところ、かな……」

「では、具体的に未練の内容というものは?」

「……分からない」

「は?」


 予想外の返答に、つい素っ頓狂な感じの声で聞き返してしまった。

 すると、白田さんはムッとした表情で目を逸らした。


「分からないものは分からないんだからしょうがないでしょ? ……美雪関連ってことは分かっているけど、具体的には何をすればいいのかも分からない」

「……」

「……でも、一つだけ分かっていることがある」


 白田さんの言葉に、私は「何ですか?」と聞いてくる。

 すると白田さんは少しだけ悲しそうな顔をして、続けた。


「……今私がやっていることは、間違っている」


 その言葉に、私は首を傾げた。

 すると白田さんはニコッと笑った。


「不思議に思わなかった? 急に美雪と話すようになって。今まで二人とも、全然話さなかったんでしょう?」

「……まさか……」

「そ。私が二人の仲を取り持ったの」

「なぜそんなことを?」


 私がそう聞くと、白田さんはケラケラと笑いながら「なぜでしょう?」と言った。


「はい?」

「……なんか勢いで、美雪に恩返しする~とか言っちゃった。それで、そのままの勢いで、黒田さんと美雪の仲を取り持ったの」

「……なぜ、私なんですか?」

「……美雪が、黒田さんのことを……好きだったから」


 その言葉に、私は言葉を失った。

 すると白田さんはクスクスと笑って、「これ言ったこと、美雪には内緒ね」と言った。


「……でもさぁ、今は後悔してるよ。二人の仲を取り持てば、美雪は幸せになって、私も幸せになれると思っていたの。……でもね」


 そう言うと白田さんは自分の体を抱きしめ、悲痛な表情で笑った。


「悔しくて仕方がないの。美雪が楽しそうにテメェと話してるの見る度に、ドス黒い感情が溢れ出てしょうがない。こんなんじゃ、仮に美雪が黒田さんと付き合えても……私は成仏できない」

「……」

「それどころか未練しか無いよ! 美雪がお前なんかと付き合うなんて! 悔しくて、苦しくて! もう……何が何だか分からない……」


 そう言って、白田さんは強く自分の腕を抱きしめる。

 彼女の言葉に、私は何度か手を握りしめては開くのを繰り返す。

 私は……どうすればいいのだろう?

 どうするのが……正しいのだろう?

 ……分からない。

 もしかしたら、最初から答えなんてものは無いのかもしれない。

 ただ分かっていること……それは……。


「……それでも私は、美雪さんが好きです」

「……」

「この気持ちに嘘はありません。例え貴方がどれだけ苦しもうが、私はこの気持ちを曲げるつもりはありません」


 そこまで言った時、どこからか授業開始のチャイムが聴こえる。

 私はそれに、一度白田さんを一瞥してから、教室に向かう。

 その時、袖を小さく掴まれた。


「……?」

「……私も、この気持ちは……曲げない」


 白田さんは、そう真剣な表情で言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ