第10話 神経
「……で、なぜ一緒にトランプをすることになるのですか?」
「さぁ。なんででしょう」
私の疑問に、美雪さんはトランプを見つめながらそう答えた。
本当に唐突だった。
彼女が突然新品のトランプを突き付けて、真剣な表情で「私とトランプをして遊びませんか!」と誘って来たのだ。
断る理由なんて無かったし二つ返事で了承はしたのだけれど……本当に、なぜトランプをすることになったのだろう……。
「……あ、また揃いました」
「……」
「おぉ。またですね」
私はそう呟きながら、トランプを裏返していく。
俗に言う、真剣衰弱というやつだ。
トランプは家族とやったことがあるので、簡単なゲームであればルールは知っている。
とはいえ、それでもやったことは数えるほどしかない。
そんな私が勝てているのは、きっと美雪さんが手加減をしてくれているおかげだろう。
私としてはそういう接待ゲームは好きではないのだが、彼女の心遣いが嬉しいので、黙っておく。
しかし、それでもやはりミスはする。裏返したカードが揃わず、私は少し落胆した。
「あら……では、次は美雪さんですね」
「う、うん」
美雪さんはそう答えると、真剣な表情でトランプを見つめる。
しかし、彼女とトランプが出来るのは嬉しいのだが……。
私は、チラッと視線を動かして横を見る。
……白田さんからの視線が、先程から痛い。
まるで視線で人を死滅させる能力を今すぐに得ようとしているかの如く、鋭く私を睨んでくるのだ。
正直、そこまで美雪さんのことが好きなら、こうして私と遊ばせなければ良いのに、と思う。
美雪さんは白田さんに対して滅法甘い部分があるし、白田さんがお願いすればいくらでも彼女を構うと思うのだけれど……。
そんな風に考えていた時、美雪さんがミスをした。
彼女の心遣いに、心の中で感謝をしつつ、私はカードを回収していく。
結果的に、全く盛り上がることなく真剣衰弱は終わったのだが……良いのか、これで。
そう思っていた時、ずっと少し離れた場所からこちらを観察していた白田さんがこちらに歩いてきた。
「違う……こんなの思っていたのと違うよ!」
不満げにそう言いながら、彼女は机を両手でバンッと叩いた。
突然のことに、私はポカンと口を開けた状態で固まった。
「私はもっとこう……一緒に遊んで、笑い合って、もっと距離を縮めて欲しかった……」
「白田さんの言っていることがよく分からないのですが」
「あー、うん。気にしなくて良いよ」
「なんですと!?」
答えをはぐらかす美雪さんに、白田さんは不満そうにそう声をあげた。
というか、まさかと思うけれど、この真剣衰弱は白田さん主催だったのか?
いや、反応的にトランプをさせたかったわけではないようだけど……。
でも……私達を二人にさせようとしたのは、彼女の計らいのようだ。
「そもそも、これなぁに? 私は一緒に遊ぶって言ったんだけど」
白田さんの言葉に、私は自分の耳を疑った。
まさかと思うけど……まさか、彼女はトランプを知らない?
固まった私に気付いているのか否か、美雪さんは平然とした様子でトランプの一枚を手にとった。
「ん? トランプだよ? 室内でやるゲームみたいな」
「ゲーム?」
「うーん……シロも一緒にやってみる?」
「うんっ!」
美雪さんの言葉に、白田さんは元気に頷いた。
それから、私達は三人でババ抜きをした。
……やりながら、私は白田さんに視線を向ける。
彼女は何なんだ? 何が目的だ?
疑問は募るばかりで、解決する当てはない。
だったら……するべきことは一つ。
彼女に……直接聞くしかない。




