第2話 異質
―――岡井美雪。
それが、二年生になって同じクラスになった少女の名前だった。
清楚な印象を抱く少女で、顔は人形のように整っていた。
いや、見た目だけでなく、全体的に人形のような少女だった。
基本的に無表情で、退屈そうな目で毎日を過ごしていた。
そんな彼女に、男子は惹かれていた。
しかし能面のように表情が変わらないからか、だんだんと気味悪く思い、距離を取るようになる。
そんな彼女は、同じ中学校だったという友人二人とよく昼食を共にしていた。
恐らく、その友人二人の考えとしては、岡井さんに惹かれている男子の目を少しでも自分に向けようとした結果なのかもしれない。
岡井さん自身に恋をしている素振りもないので、男子からの告白も全て断るだろうと考えたのかもしれない。
しかし、彼女に関心を抱いたのはそれだけの理由ではない。
確かに彼女の表情は能面のようだ。
何を考えているのか分からない部分はある。
ただ、その他にも……別の気味悪さを、彼女は秘めているのだ。
「ぁ……」
そんな風に考えつつ、図書館から借りて来た本を片手に教室に入った時だった。
ちょうどその岡井さんと目が合ったのは。
相変わらずの無表情で私を見ている岡井さんは、しばらく私を見ていた後で、目を逸らした。
私も特に気にしていない素振りをしつつ、席についた。
「……アイツ、いっつも一人だよね。本しか友達いないのかな」
そんな陰口が聴こえ、私はついその会話に耳を澄ませてしまう。
元々、私が陰口を言われているのは知っている。
本が友達……それも、あながち間違いではない。
こうしてずっと一人でいるからか、主に女子から悪口を言われている。
「ホントだよね。寂しい人」
ふと視線を向けて見ると、陰口を言っているのは岡井さんと話していた二人だった。
その二人に対し、岡井さんは相変わらずの無表情で菓子パンを頬張っている。
しかし、何か言った方が良いと判断したのか、咀嚼していたパンを飲み込み、口を開いた。
「……そうだね」
そう一言、言っただけ。
それなのにどうして……その時だけ、笑顔になるのか。
彼女が何を考えているのかは分からない。
ただ、いつも無表情なのに、質疑応答に応える時だけ、僅かに表情が変わるのだ。
それが……彼女の気味悪さ。
まるで、刺激を与えたら反応する機械のようだ。
普段がオフ状態だとするのなら、誰かに応答している時はオン状態。
笑ったり、怒ったり、悲しんだり、落ち込んだり。
その場に応じて、反応がコロコロ変わるのだ。
普段から感情豊かな人間ならまだしも、能面のように表情の変わらない岡井さんだ。
少し気味悪く感じていた。
しかし、そう思うと共に、彼女と話してみたいとも思っていた。
確かに異質な存在ではある。
けど、彼女も本が好きなのだ。
趣味はホラー小説などに偏っているみたいだけれど、よく図書室に出入りしているのを見かける。
ホラー小説の棚の本はかなり網羅しているようで、最近は読むものが無くて困っているような素振りがある。
それくらい、彼女も本が好きなのだ。
だからこそ、存在の異質さを含めて、岡井さんと話してみたいと思っていた。
しかし、そんな願望叶うわけないと思っていた。
だから諦めていたが……しかし、それはある日、一転する。
突如現れた転校生、白田仔犬によって。




