第1話 本
私の体は、昔から弱かった。
そのため、激しい運動などは禁じられていた。
外で遊んだりすることも出来ず、小さい頃から家に引きこもっていた。
幼い私にとって、家の中と庭だけが世界の全てだった。
ある日、そんな私に、父が絵本を買って来た。
可愛らしい動物が主人公の、楽しい話だった。
それを読んでいると、まるで、自分もその動物達と一緒に遊んでいるような気分になった。
それから私の世界は、本の中だった。
絵本を始めとして、子供向けの文庫や大人が読むような小説などに手を出すようになった。
小学生になる頃には、有名な作家の小説に手を出すようになっていた。
六歳にして、小さな文字や小難しい漢字が並んだ小説を読んでいた。
しかし、小説は友達の作り方を教えてくれない。
だから、私は自分から友達を作ることが出来なかった。
私がずっと本の世界に没頭していたからか、周りの子も気後れしてしまい、友達が出来ることなく小学校を卒業し中学生になった。
中学生になると、スマートフォンを与えられた。
インターネットを自由に見ることが出来るようになり、私はそこで、ネット上にある小説を見るようになった。
有名なサイトだとか、色々見ている内に……とある作品を見た。
所謂、同性愛というものだ。
私の中では、男と女が恋愛関係になるのが普通だと思っていた。
だからこそ、同性を愛するというその概念が、とても興味深いと思った。
もっと同性愛について知りたい。
その世界を感じてみたい。
そう思った私は、同性愛の小説について調べた。
男同士。女同士。はたまた、異生物同士や異種族同士など。
調べ読んでいく内に、私の中で、一つの疑問が浮かんだ。
なぜ人は誰かを愛することが出来るのだろう? と。
一度浮かんだ疑問は、私の胸中で渦巻いた。
私にとっての世界は、本の中だけだった。小説の中だけだった。
だからこそ、周りの人間に恋愛感情を抱くことなんて出来なかった。
恋愛感情というものが何なのか。恋愛とはそもそも何なのか。
そんな疑念を胸に抱きながら、私は高校生になった。
高校は、地元で一番偏差値の高い学校に入った。
そしてそこには……身近に同性愛が存在する場所だった。
例えば、野球部でバッテリーを組んでいる男子二人。
才能があり、将来有望と言われているピッチャーの男子と、体格の良いキャッチャーの男子。
二人は友達と言うには距離も近く、影で噂される存在だった。
あとは、とある女子二人。
髪の長い中性的な顔立ちの美少女と、大和撫子を体言したような美少女。
主に大和撫子の片思いのようだった。
中性的な方は、いつも退屈そうな顔をしていて、大和撫子のことは見向きもしないような状態だった。
どうやら中性的な方はイジメを受けていたようで、一年生が終わる頃には転校したが。
しかし、身近にも同性愛というものが現れるようになり、ますます恋愛というものへの関心が深まった。
いつか、私の心を揺さぶるような相手が現れるのだろうか……と考えていた。
けど、私は周りの人間への興味が薄かったし、あまり期待はしていなかったが。
しかし、二年生になりクラス替えがあり、私の関心を引く相手が現れた。
彼女の名前は……―――




