第17話 放っておけない
「―――……千沙……」
「美香……どうしたの? 顔色悪いけ……」
千沙の言葉を遮るように、私は抱きついた。
すると、千沙は慌てて私の体を引き離した。
「な、何やってんの美香!」
「……ごめん」
私の言葉に、千沙は困ったような表情を浮かべた。
それから私の手を引いて歩き出す。
「わ、ちょ……千沙!?」
「どっか喫茶店……そこで話聞くから!」
「で、でも……!」
つい抗議すると、千沙はクルッとこちらを振り向いた。
「そんな顔してる美香……放っておけない」
それだけ言うと、また私の腕を引く。
私はそれになんとか抵抗しようとしてみるも、強引に引っ張られ、結局喫茶店に連れ込まれた。
メニューを見て適当に注文をしてから、千沙は私を見た。
「それで……何があったの?」
「……千沙には関係ないよ」
「……友達、でしょう? 私は美香が心配なの」
私が心配したらダメなの? と、千沙は首を傾げながら聞いてくる。
そう言われるとなんだか断りにくくなって、私は押し黙る。
すると千沙は微笑み、私の手を取った。
「ダメ……かな?」
「……ううん。そんなことない。……あまり、良い話じゃないけど……」
それから私は、千沙に全てを話した。
お姉ちゃん達と遊園地に行ったこと。
そして……仔犬お姉ちゃんに、フラれたこと……。
全てを話すと、千沙は顔を不快そうにしかめた。
「何それ……ありえない!」
「ちょ、千沙……」
「美香のキスだけ貰っておいてフるとか……!」
拳を強く握り締めながら言う千沙を、私は慰める。
気付いたら来ていたアイスコーヒーを飲んで、ようやく千沙は落ち着いた。
「……てか、そんなことされても、美香はまだその仔犬さん? のことが好きなの?」
「え……うん」
私が頷くと、千沙は呆れたようにため息をついた。
頬杖をつき、「なんで?」と聞いてくる。
「なんで、って……」
「……そんな酷いことされて、さ……嫌いになったりしないの?」
千沙の言葉に、私は手元にあるアイスティーの水面を覗いた。
赤茶色の液体を見つめながら、私は頷いた。
「うん……確かに酷いことかもしれないけど、それを差し引いても……好きな人を急に嫌いになったりなんて、なれないよ……」
私の言葉に、千沙は「そっか……」と言って、悲しそうに顔を歪めた。
しばらくして、「でもさ」と続ける。
「確かに、美香のそう言う所……一途で良いと思う。それは、美香の良い所だと思うよ」
「……ん……」
「でも、だからって、そこまで色々言われて想い続けるのは、どうかなって思うよ? ……そんなの、誰も得しないし」
「……まぁ、言われてみれば……」
千沙の言葉にも一理ある。
私の言葉に、千沙は僅かに頬を桃色に染め、口を開いた。
「だから、さ……仔犬さんは諦めて、私と付き合わない?」




