第15話 目障り
「えっ……なんで、急に、そんなこと……」
私の質問に、仔犬お姉ちゃんは答えない。
手を組み、暗い目で真っ直ぐ私を見つめている。
その目は、逃がさないぞ、と言っているような気がした。
揺れながら上昇していくゴンドラの中に、緊張感が漂う。
「……そう、だけど……」
なんとか搾り出た言葉は、曖昧なものだった。
しかし、それでも仔犬お姉ちゃんの表情が緩むことはなく、冷たい眼差しで私を見ていた。
頬杖をつき、真っ直ぐ私を見ていた。
「……なんで?」
「なんで……って……」
「正直言って目障りなんだよね~そういうの。私さぁ、別に美香ちゃんに興味あるわけじゃないし」
そう言って立ち上がり、私の前まで歩いて来る仔犬お姉ちゃん。
私はどうすれば良いのか分からず、固まることしか出来なかった。
やがて仔犬お姉ちゃんは私の前まで歩いてくると、腰を曲げて目線を合わせてくる。
「ねぇ、緊張する?」
「え……?」
「ドキドキする? 顔熱くなる?」
「な、にを……」
困惑していた時だった。
仔犬お姉ちゃんが、私と唇を触れさせたのは。
頭の中が真っ白になり、顔が熱くなる。
すると唇が離れた。
「……こんなことしてもね、私の気持ちは全然揺れ動かない」
「……」
「貴方は私にとって、その程度の存在なの。だから、さっさと諦めてよ」
「……なんでそんなこと言うの……」
私の言葉に、仔犬お姉ちゃんは答えない。
だから私は顔を上げて、続けた。
「私は……私は、本当に好きなのに……! そりゃあ、仔犬お姉ちゃんがお姉ちゃんのこと好きなのは知ってるよ!? でも……好きでいるくらい……!」
「だからそう言うのが目障りなんだって!」
仔犬お姉ちゃんの言葉に、私は押し黙る。
彼女はそんな私をジロッと睨み、軽く舌打ちをした。
「……私は、その想いには応えられない」
「……分かってる」
「違う……美香ちゃんが思ってるような理由じゃなくて……」
「分かってるよ? お姉ちゃんが好きだって。だから私の気持ちに応えられないんでしょう? でも、勝手に好きでい続けるくらいは……!」
「私はもうすぐ死ぬの!」
突然放たれた言葉。
それに、私は「へ……?」と固まってしまった。
自分の失言に気付いたのか、仔犬お姉ちゃんはハッとした表情で自分の口を押さえる。
私はすぐに立ち上がり、仔犬お姉ちゃんの肩を掴んだ。
「ねえ、今のどういう意味なの!? 死ぬって……」
「み、美香ちゃんには関係ないでしょ!?」
「あるよ! だって、私は仔犬お姉ちゃんのことが……!」
「うるさいッ!」
その言葉と共に、私は突き飛ばされた。
椅子に座り込み、真っ直ぐ仔犬お姉ちゃんを見上げる。
彼女は私を見て、気まずそうに目を逸らした。
その時、ゴンドラの扉が開く。
「美雪~!」
仔犬お姉ちゃんはすぐに満面の笑みを浮かべ、ゴンドラを飛び出していった。
私も続いて出て行く。
なぜかお姉ちゃんは仔犬お姉ちゃんを見てへたり込んだりしていたが、あまり気にならなかった。
このまま、何も無く全てが終わればいいのに。
そんな願望は次のお姉ちゃんの一言で打ち壊された。
「実は、私とクロは……今日から、付き合うことになりました」




