第12話 誰
それから、お姉ちゃんがいたら乗れ無さそうな絶叫マシン二個くらいに乗り、そろそろお姉ちゃん達と合流しようかという話になり、私達は遊園地の中を歩いて行く。
あれから仔犬お姉ちゃんはいつものように、無邪気な感じで走り回っていた。
……あの時の仔犬お姉ちゃんの顔が、未だに頭離れない。
豹変とか、そういうレベルではない。
―――誰?―――
それが、一番に浮かぶ感想だ。
演技が上手だと言っても、あそこまで変わるものだろうか。
そこまで考えて、私は立ち止まった。
もしもいつもの“可愛い仔犬お姉ちゃん”の方が、演技だとしたら……?
脳裏に浮かんだその考えを、慌てて振り払う。
そんなわけない!
仔犬お姉ちゃんは、可愛くて、明るくて、そんな仔犬お姉ちゃんを好きになったんだ!
じゃあ、もしその仔犬お姉ちゃんが偽物だとしたら……私は、どうすれば……。
「美香ちゃ~ん」
仔犬お姉ちゃんに名前を呼ばれ、私はハッと顔を上げる。
見ると、仔犬お姉ちゃんが屋台のようなものを笑顔で指さしているのが見えた。
「仔犬お姉ちゃん……どうしたの?」
「えへへっ。美味しそうな匂いがしたの」
「んー……ちょっと見に行ってみよっか」
「うんっ!」
笑顔で頷く仔犬お姉ちゃんに、早速私達は屋台に行ってみた。
見ると、メニューにはチュロスとか書いてあった。
「ん……大分お姉ちゃん達も回復しているだろうし、買って行く?」
「んっ……美雪喜ぶかなぁ」
「きっと喜ぶよ。確か、小さい頃遊園地でチュロス食べた時も喜んでたし……」
「……小さい頃?」
「うん。お姉ちゃんが、八歳くらいの時だっけな~?」
そう言いつつ視線を下ろした時、つい「ひ……!?」と声を漏らした。
なぜなら、仔犬お姉ちゃんが鋭い目で私を見ていたから。
つい言葉を失っていた時、仔犬お姉ちゃんはすぐに目を緩めた。
「小さい頃の美雪か~。きっと可愛かったんだろうね~」
「自分の姉だから実感無いけどねぇ……そうだ。今日帰ったら、アルバム見てみる?」
「良いの!?」
「もちろん。あ、お姉ちゃんには秘密だよ?」
「うんっ!」
キラキラと輝く笑顔で言う仔犬お姉ちゃんに私も笑いつつ、ズキズキと痛む胸を押さえる。
なんだろう、この感じ……。
チュロスを注文し袋詰めしてもらっている間に、私は仔犬お姉ちゃんに向き直る。
「ねぇ……仔犬お姉ちゃん」
「ん? なぁに?」
「……仔犬お姉ちゃんって……」
「ハイ。チュロス四人分。お待たせ!」
なんとか聞こうと思った時、チュロスを差し出されてしまった。
仕方がないので片手に一本ずつで二人で受け取る。
「毎度!」と笑顔で言うおじさんにお礼を言いつつ、私達はお姉ちゃん達が休憩している方向に歩いて行く。
「美香ちゃん。さっき何か聞きかけてたよね? 何て言おうとしてたの?」
テクテクと歩きながらそう聞いてくる仔犬お姉ちゃんに、私は正直に聞こうと少し口を開いた。
しかし、すぐにそれを止め、「なんでもない」と答えた。
別に良いじゃないか。例え、今の仔犬お姉ちゃんが偽物だったとしても。
それで、私の恋心が偽物になるわけではない。
私の片思いが……叶うわけではないのだから。
 




