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犬の恩返し  作者: あいまり
岡井美香編
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第9話 真実

「実は、今度の週末に、シロと遊園地に行くんだけど」


 学校から帰って来た姉にそう宣言されたのは、本当に突然のことだった。


「はぁッ!?」


 驚きだとか困惑だとかが混ざりあって、気付いたらそんな声をあげていた。

 すると、すぐにお姉ちゃんに部屋に押し込まれた。

 彼女は扉を閉めると、焦りを僅かに顔に滲ませながら私を見た。


「大きな声出さないでよ! シロに聞かれたらどうすんの!」

「だ、だって……」


 鬼気迫る表情で言われ、私は押し黙る。

 すると、お姉ちゃんはため息をつき、自分の頭を掻いた。

 それから、口を開いた。


「……その週末の遊園地には、私の友達も来る」

「……」

「…………私は、その子のことが好き。シロは、あくまで私とその子の間を取り持ってくれているだけ」


 その言葉を聞いた瞬間、私はハッと顔を上げた。

 それはつまり……お姉ちゃんには好きな人がいるということ!

 仔犬お姉ちゃん以外で!


 諦めよう。諦めきれない。

 どっちつかずで恋心を揺れ動かしていた私にとって、その情報はとても重大なものであった。


「それで、その子と三人で行く予定だけど、そうなるとシロが一人ぼっちになる可能性があるかなって。だから、美香も一緒に……」

「行く!」


 自分でも驚くくらい迷いなき即答だった。

 お姉ちゃんも若干顔を引きつらせていたが、すぐにいつもの無表情になり、ポケットからスマホを取り出しながら部屋を出て行った。


 とにかくこの喜びを誰かに伝えたかった。

 私はスマホを取り出し、迷わずとある人に電話を掛けた。

 四度のコール音の後、それが途切れ、声がした。


『もしもし?』

「あ、もしもし千沙~?」

『……何?』


 突然呼び出されたからか、少し不機嫌そうな千沙の声。

 私はそれに笑いつつ、口を開いた。


「あのね、今度の週末にね、好きな人と一緒に遊園地行けることになったの!」

『へぇ……凄いじゃん。デート?』

「うーん……いや、お姉ちゃんとその友達も一緒」

『……ちょっと待って。美香の好きな人って何歳?』

「えっと……お姉ちゃんと同い年」

『……それ、美香以外全員年上じゃん』

「……あ」


 私も今気付いたので、ついそう声を漏らした。

 そんな私の声に、千沙はため息をついた。


『美香のお姉さんの友達ってことは、多分同級生とかそんな感じでしょ?』

「んー……多分」

『よくそんなお出かけ了承できたね』

「まぁ、恋のためなら!」


 私の言葉に、電話の向こう側で千沙がクスクスと笑ったのが分かった。


『まぁ頑張って。お土産楽しみにしてるね』

「え、何それ!」

『食べ物系か可愛い系でよろしく~』

「あ、ちょっと……!」


 私の制止をブ千切るように、電話が切られた。

 無情に響く無機質な音を聴きながら、私は息をついた。

 まぁでも、そんなことが気にならないくらい……喜びが強いけれど。

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