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犬の恩返し  作者: あいまり
岡井美雪編
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第5話 ハイスペック

 シロの恩返しは、落ち着いて話せる時にと一度置いておき、私達は教室に行きその日の授業を受けた。

 それから分かったのだが……シロの能力がハイスペックすぎる。


 まず勉強面。

 先生に当てられても平然と答え、その日いきなり行われた小テストでは前勉強なんてしていなかったにも関わらず百点満点を取っていた。


 次に体育。

 その日はバスケットボールだったのだが、素早いドリブルでバスケ部も難なく躱し、なんとダンクシュートを決めたりスリーポイントを決めたりと、大活躍をしていた。


 しかも見た目が美少女と来ている。

 気付いた時には、男女問わず人気者になっていた。

 これは、昼食は色んなグループから引っ張りだこに……。


「美雪~! ご飯~!」


 ですよね。

 懇願するシロに私は嘆息しつつ、鞄から弁当を取り出した。


「それで、シロのお昼ご飯は?」

「無いよー」

「へぇ……は!?」


 顔を上げると、満面の笑みで私を見るシロ。

 許可を貰ってシロの鞄を見て見ると……あれ、弁当入ってる。


「シロお弁当入ってるじゃん」

「えっ……ホントだ~」


 同じように自分の鞄を覗き込んだシロは、間抜けな感じの声を漏らす。

 まぁ金はあるし、最悪購買でパンでも買えば済むけど……。

 そう思っていた時、席の近くに誰かが立った。


「美雪、白田さん。私達も一緒に食べて良い?」


 ……いつも私と一緒に昼食を取っている、スカート丈短いギャルとピアスギャルだ。

 名前は……何だっけ。

 このクラスで唯一同じ中学だったという理由と、建前と嘘で繕っているせいで断れない性格のおかげで、なんとなーく流れで一緒に昼食を食べている。

 まぁ、流石に私にぼっち飯をする勇気は無かったしね。


 そう思っていた時、なんとなく、黒田さんの席の方に視線を向けた。

 彼女は一人で、背筋を伸ばし、とても礼儀正しく昼食を食べていた。

 うん。相変わらず住む世界が違う。

 シロは恩返しで私と黒田さんをくっ付けるということを言っていたが、そもそも彼女は高峰の花だというのに、そんなこと出来るのだろうか?

 そもそも、私は黒田さんのことは尊敬しているだけで、好きとかでは……。


「美雪~。一緒に食べたいって~」


 黒田さんに見惚れていた時、シロに体を揺すられて我に返る。

 あぁ、そっか。今はこの二人をどうにかすべきなのか。


「……私は別にどっちでも良いよ。シロは?」

「美雪が良いなら私も良い~」


 こういう辺り、犬の従順さが垣間見える。

 私が「良いよ」と答えると、二人は近くの椅子に腰かけ、弁当を開く。

 まぁ、この二人の目的はなんとなく分かっている。

 シロに危害を与えるような真似はしないだろうが、まぁ、多少警戒はしておこう。

 そんなこんなで私とシロも弁当を開いた時、私は驚いた。


「えっ……弁当の中身、一緒……?」

「やったぁ! 美雪とお揃いだー!」


 暢気に言って早速食べ始めるシロ。

 どうなってる……いや、一個だけ可能性はある。

 本当なら今すぐ調べに行きたいが、今は元同中ギャル二人に絡まれているせいで行けない。

 クッ……確かめるなら放課後か……。


「そういえばさ、二人はどういう知り合いなの?」


 その時、スカート丈が短い方のギャルがそう言ってくる。

 どういう知り合いか、か……。

 流石に正直に答えられないし、どう誤魔化そうか……。


「あのねー、私は美雪にかわr」

「シロ! 黙って!」


 咄嗟にそう叫ぶと、シロは口を閉ざす。

 純粋なのは良いけれど、流石に正直すぎるのも困りものだ。

 まぁ、結局は犬だから、言うことは聞いてくれるみたいだけど。


「えっと……?」

「あっはは……私達の関係なんてどうでもいいじゃん。それより、他に何か聞きたいこととか無いの? シロに」


 私の言葉に、一瞬二人の目の色が変わる。

 大丈夫。お二人の目的は分かっているよ。

 ……シロに釘を刺す。

 ただでさえ、男女問わず人気絶好調。ガンガンいこうぜ状態のシロだ。

 このままでは、二人の大好きな男子達が奪われるのも時間の問題。

 本人に釘を刺しておかねば、カップル成立とでも考えたのだろう。

 ……まぁ、本人は犬なんだけど。


「そうだった。ねぇ白田さん。白田さんは、好きな人とかいる?」


 ピアスギャルの言葉に、シロはオカズを頬張ったまま首を傾げる。

 しかし、それを飲み込むと、すぐに満面の笑みを浮かべた。


「私はねー、美雪が大好き!」

「いや、そういうのじゃなくて、恋愛とかの……」


 シロの返答に、二人は戸惑う。

 ……これは、私の出番は無いな。

 唐揚げを飲み込んだ私は、シロが変なことをばらさないか警戒しつつ、黒田さんの方に視線を向けてみた。

 彼女はすでに弁当を食べ終えて、読書を開始していた。


 ……あの本、前に私が読んだホラー小説だ。

 たまたま見えた表紙に、私はつい身構える。

 中身的には、恋愛色が中々強かった覚えがある。確かストーカーの話。

 へぇ、黒田さんってああいうの読むんだ。


 改めてシロ達の方に視線を向けてみると、何があったか、すでに三人は意気投合して楽しく雑談をしていた。

 うん。シロに危害が無いなら私は構わないよ。

 でも、そっか……シロって、他の人とも充分話せるんだ。


 そう思った瞬間、ちょっとだけ胸が痛んだ。

 本当に、ちょっとだけ。

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