第5話 可能性
晩ご飯を食べた後、私はすぐにお風呂に入った。
シャワーでも浴びて、スッキリしたい気分だった。
前髪を伝い流れ落ちていく雫を見つめながら、私はため息をついた。
なぜ……今まで気づけなかったんだろう。
集中していれば、もっとそういう心情は把握できたはずだ。
なぜだ……なぜ気付けなかった……。
溢れ出る後悔と涙を、熱湯が流していく。
私は……仔犬お姉ちゃんが好きなだけ。
それ以上でも、それ以下でもない。
だから、彼女が誰を好きになろうと、私には関係のないこと。
……それは分かっている。
「でも……諦めきれるわけないじゃん……!」
そう呟きながら、私は自分の太ももの辺りを殴った。
太ももに付着していた水しぶきが舞い、ピシャピシャと床に落下した。
「……はぁ……」
ため息をつき、シャワーを止めて、ボディーソープで体を洗っていく。
こうして悶々と考え込んでいても、何もしようがない。
私は考えていたことを全てこそぎ落とすように、ボディソープで体中を洗っていく。
仔犬お姉ちゃんがお姉ちゃんのことを好きなのは確定だとして……お姉ちゃんはどうなんだろう。
確かに仔犬お姉ちゃんに対しては特別な感情を抱いているとは思うけど……だって、あのお姉ちゃんだよ?
いつも自分以外の全ての世界がどうでもよさそうな、死んだ目で生活しているお姉ちゃんだよ?
そりゃあ、仔犬お姉ちゃんに対してはよく感情を露わにしているし、楽しそうに……あれ? これ両想い?
「はー……」
ため息が漏れた。
でも、お姉ちゃんの場合、多分無自覚だ。
だから、悔しい。
両想いなら、さっさと告白して付き合えって思う。
しかし、お姉ちゃんにこれを言えばきっと否定する。
だから尚更、ムカムカする。
まぁ、こんな風にイライラしていても仕方がない。
お姉ちゃんと仔犬お姉ちゃんが付き合っていないなら、まだ私にもチャンスがあるということだ。
それなら、その僅かな可能性に懸けるしかない。
そう思って着替えてお風呂を出たのに……なんで二人は手を繋ぎ、お風呂に向かっているんだ。
「え、は……お姉ちゃん達、もしかして、一緒入るの!?」
「えっ……そうだけど?」
私の質問に、お姉ちゃんは当たり前のように返す。
そんな日課あったっけ……?
……なぜだろう。まるで、靄がかかったように思い出せない。
いや、今はそんなこと関係無い。
「……お姉ちゃんは本当に無自覚なの……?」
つい、そう呟く。
だって、普通誰かと一緒にお風呂に入ろうとなんてしないもの。
恋心に無自覚だとしても、普通こんなこと進んでやろうとなんてしない。
だんだんと頭の中が色々な感情で混ざり合い、私はその場から離れた。
仔犬お姉ちゃんに、感じが悪いと思われたかもしれない。
そんなこと関係無い。
ただ、あの二人を見ていたくなかった。
それからまた云々と部屋の中で悩み、なんとか気持ちを落ち着けた。
こんなに悩んでも仕方がないことは分かっている。
まだ可能性がゼロというわけではない。
諦めたら何もかも終わりなんだって、思うから。
ようやく気持ちを落ち着け、私は部屋を出てトイレをしに一階に下りた。
その際に、お姉ちゃんが仔犬お姉ちゃんに服を着せているのを見て、ヤキモチとか以前に二人の関係性が心配になった。
付き合うならせめて変態カップルになるのだけはやめてください。




