第37話 反応
「実は、私とクロは……今日から、付き合うことになりました」
そう言った瞬間、三人は三者三様の反応を見せた。
まず美香。突然のことに思考が追いついていない様子で、ポカンとした間抜けな顔で私を見ている。
次にクロ。顔を真っ赤にして、「ちょっ、美雪さんっ……」と言いながら私の腕を掴む。
そして……シロ。彼女は……―――
「えっ、付き合うことになったって……いつの間に?」
呆然としたような顔で、そう言った。
彼女の綺麗な白い髪に負けないくらい顔を青ざめさせながら、瞳孔の開いた目で私を見ている。
え、なんでそんな反応すんの……?
私の予想では無邪気な笑みを浮かべながらはしゃぐと思っていたんだけど。
そこで、私はハッと思いついた。
クロと私が付き合うことは、つまりシロの死を意味する。
自覚していたこととはいえ、人間としての生活を楽しんでしまって、死にたくないっていう気持ちがあったのかもしれない。
そうなると、かなり酷なことをしてしまったかもしれない。
でも、言ってしまった言葉は、もう戻せない。
覆水盆に返らず。
だったらもう……突き進むしかないだろ?
「……さっき観覧車に乗った時に」
私の返答に、シロはその顔を悲しそうに歪めた。
しかし、すぐに泣きそうな笑みを浮かべて「おめでとう」と言った。
泣き笑いってこんな顔のことを言うのかな、と少し考えた。
けど、シロはすぐにハッとした表情になり、自分の両頬を叩いた。
パァンッ! と乾いた音がした。
次の瞬間には、シロは満面の笑みで私を見た。
「良かったね! 美雪、黒田さんのこと、大好きだったもんね!」
「シロ……」
「仔犬お姉ちゃん……」
なぜか、シロを見る美香の顔が悲しそうに歪んだ。
なぜ美香がそんな顔をするんだ?
シロの事情は話していないハズだ。
犬の従順さを持つシロが、無断で美香にあのことを話すとは思えない。
だったら、なんで?
「えっと……もうそろそろ帰りませんか? 日が暮れてきましたし」
クロの言葉に、私は空を仰いだ。
見ると、確かに空は夕焼けに染まっている。
まぁ、シメの観覧車にも乗ったし、あとは帰るだけだ。
私達は遊園地を出て、帰路を歩く。
なぜかその間シロはずっと無言だった。
普段天真爛漫なシロが無言であるため、私達の間の空気も不思議と重く、ほとんど会話なんてしなかった。
「……私の家、こちらなので、お先に失礼します」
しばらく歩いていた時、クロはそう言って微笑んだ。
そういえば、クロの家には行ったことがないな。
送るついでに家の場所でも知っておこうか。
「あ、私が送るよ」
「いえ、結構です」
「でも……」
「……それはまた、別の機会に」
そう言ってクロは微笑み、歩いて行ってしまう。
彼女の後ろ姿を眺めていた時、美香が「あっ」と声を漏らした。
「ごめんお姉ちゃん。私、ちょっと本屋行ってくる」
「えっ?」
「今日好きな漫画の新刊日なんだよね~。すっかり忘れてた。仔犬お姉ちゃんと先帰っててよ!」
そう言うと美香は私の返事も聞かずに軽く手を上げ、走り去っていく。
呼び止めようにも、美香の足は速く、すでにかなり遠くに行ってしまった。
そしてその場には、私とシロだけが残された。




