第33話 楽しんで
男二人に絡まれたこと以外は特に何事もなく、楽しく遊園地を楽しむことが出来た。
様々なアトラクションに乗り、ジェットコースター以降は胃液をリバースするハメにもならず、私達は楽しい一日を過ごすことが出来た。
そして一日のシメとして、私達は観覧車に乗ることにした。
「わぁ~……おっきい~!」
巨大な観覧車を見上げながら、シロはそう叫ぶ。
彼女の言葉に、私は苦笑した。
しかし当然か。彼女は百貨店の屋上の小さな観覧車しか知らないのだから。
私達は早速一周分のチケットを一人一枚ずつ買い、列に並ぶ。
「あら……?」
列に並んでいた時、クロが声を漏らす。
彼女の様子に私は「どうしたの?」と聞きつつ、クロの視線を追う。
見るとそこには、腕を組んで親しげに何かを話す二人組の女がいた。
一人は、私やクロと同い年くらい。
ただ、すごく美人で、まるで大和撫子を体言したかのような美少女。
黒くて綺麗な長い髪に、白い肌。
対するもう一人は、大学生くらいの女の人だった。
黒い髪をポニーテールに纏めていて、全体的に利発そうな雰囲気。
整った顔が大和撫子ちゃんに腕を絡められて緩んでいる。
会話は聴こえないが、傍から見ても充分そういう関係であることが分かる。
「うわぁ……」
「……あれ、隣のクラスの子ですよ」
「えッ」
隣のクラスって……確か、彼女がいるっていう……?
私の表情から考えていることを察したのか、クロは「えぇ」と頷いた。
「やっぱり、あの、クロが前に話してた子だよね?」
「はい。一組の」
「名前は何だっけ……?」
結構変わった苗字だったのは覚えているけれど、思い出せない。
思い出そうとしている間に大和撫子ちゃんとポニテさんは観覧車のゴンドラに乗ってしまった。
まぁ、思い出せない内は別に良いか、と思い直し、私は考えるのを止めた。
「それにしても、あんな感じの見た目なんだ。結構可愛い見た目だよね」
「……そうですね」
「……?」
クロの返答する声がやけに暗かったので顔を見ると、クロは少しだけ座った目で大和撫子ちゃん達が乗ったゴンドラを見ていた。
ハッ、まさかと思うけど、学校のマドンナ的な立場を取られると思っている!?
確かに私は同じクラスになったこともないしあまり絡みもなかったから大和撫子ちゃんのことは知らなかったけど、もしや私が知らなかっただけで、実は二人は男子からの人気を二分していた!?
そしてそのライバルを目の前にして、今、嫉妬の炎が巻き起こる……!?
……と、流石に冗談はこの辺にしておこう。
とはいえ、まぁ、多少気になる面はあるのかもしれない。
同じ学年の子ではあるし、外でデートしているのを見たら多少は気に掛かったりはするだろう。
普通のことだ。
そんな風に考えていると、私達の番になった。
ゴンドラの扉が開き入ろうとした瞬間、背中を押された。
ゴンドラの中に押し込まれ閉まる寸前の扉を振り向くと、そこではポカンとした表情の美香と、笑顔でこちらに手を振って来るシロの姿があった。
満面の笑みを浮かべたシロの口は、「楽しんで」と言っているような気がした。




