第31話 ベンチにて
「うぅ……」
「大丈夫ですか?」
クロはそう言って水が入ったペットボトルを差し出してくる。
私はそれに「ありがとう……」と言いつつペットボトルを受け取り、早速蓋を開けて水を口に含んだ。
最悪の気分だ。
どうやらシロも私の乗り物への弱さを理解していなかったらしく、私が吐いている横でオロオロしていた。
ちなみに美香は知っていたので、動揺一つせずに介抱してくれた。
クロは、最初は少し引い……驚いていたようで固まっていたが、すぐに水を買って来てくれたり、こうしてベンチで一緒に休んでくれている。
折角今日はシロと買った服を着て来たというのに、まともにアトラクションに乗らずにこうして休んでいるだけなんて、情けない。
そういえば、新しい服に私の吐瀉物が付着しなくて良かった。
シロと美香? 私の恋路(笑)を邪魔しないようにと、二人でさっさと別のアトラクションに乗りに行ったよ。
そういえば美香はシロのことが好きなんだよね?
シロの末路を考えると、その恋は恐らくロクな結末を迎えないだろう。
それにしても、恋路……ねぇ……。
私は、なんとなく、チラッとクロを見た。
「……? どうかしましたか?」
そう言って微笑み、首を傾げるクロ。
その笑顔を見た瞬間、ドキッと心臓が高鳴る。
「な、なんでもないっ」
そう言いながら顔を背け、俯いてしまった。
美少女が首を傾げながら微笑むって、ここまで破壊力が凄いのか……。
未だにドキドキと音を奏でる胸を押さえながら、私は息をつく。
「それにしても、まさか美雪さんがここまで乗り物に弱いとは思いませんでした」
深呼吸をして気持ちを落ち着けていた時、クロがそう言った。
彼女の言葉に、私は「そう?」と聞き返した。
すると、クロは大きく頷いた。
「ハイ。……美雪さんは、私と違って、様々な乗り物に慣れてそうですし」
そう言ってはにかむクロ。
彼女の言葉に、私は「そんなことないよ」と言いながら笑っておく。
「まぁ、乗り物酔いって慣れで治ったりもするとは聞くけどね。でも、私の場合は単純に、体質的な問題かなぁ」
「そういうもの、なんですか?」
「うん。まぁでも、自転車に乗ってて酔った時は流石にビックリしたけど」
「自転車で、ですか?」
クロが少し笑いながら聞いてくるので、私は頷いて見せた。
それからスマホをしながら自転車を漕いで乗り物酔いした話をしてみせると、どうやら中々受けたようで、クスクスと可笑しそうに笑っていた。
彼女の鈴の音のような笑い声と可愛らしい笑顔に、通りすがりの男共がこちらを見ているのが分かった。
まぁ、気持ちは分かる。けど、少しだけムカムカする。
「お嬢ちゃん達」
そこで、二人ほどの男が声を掛けて来た。
……忘れていた。
シロと美香を連れて来たのは、“こういう状況”にならないための予防策だったというのに。
四人の女子軍団に声を掛けるのはまだ度胸がいるだろう。
しかし……たった二人なら?
その程度なら、きっと声を掛けるハズだ。
私はともかく、クロは超絶美少女だ。それならば、一緒にいる子が超絶不細工でもない限り、声を掛けるだろう。
少なくとも、私は目立つほど酷い顔ではない……ハズだ。
平均的な顔面偏差値は維持していると思う。
だからこそ、奴等も声を掛けて来たのだ。
さて……どうしたものか……。




