第3話 不幸
不幸というものはある日突然訪れるものだ。
天気予報ならぬ不幸予報でもあれば、心の準備くらいは出来るかもしれない。
しかし、結局そんなことあるはずもなく、不幸は唐突に伏線も無く訪れる。
結論だけ述べるならば……シロが死んだ。
その日の散歩で、いつものように公園で遊んでいた時、同じ公園で遊んでいた子供のボールが道路に出て、ちょうど公園を出るところだった私はボールを拾ってあげたのだ。
そこまでは良かったのだが、ボールを拾う時に迫って来ていた車に気付かず、轢かれる寸前でシロに突き飛ばされ、シロは車に轢かれ死んだ。
私が殺したようなものだ。
家族は皆気にするなと言っていたが、無理だった。
シロは私にとって、唯一の心のオアシスのようなものだったのに。
それを自分の手で……壊してしまった。
とはいえ、飼い犬の死如きで落ち込んでいる場合ではない。
私だって、高校生としての生活もある。
友人関係や、学業や、その他諸々。
落ち込んでいる暇なんて無い。そんな隙無い。……隙を見せたらいけない。
「あはは。それでさぁ」
だから今日も、うるさい女子高生との会話に興じる。
笑顔で偽って、本心をひた隠して。
そうすれば、私は一人にならずに済む。
……本当にこれは、一人じゃない?
誰にも本心からの言葉を言えず、ただ上辺だけの言葉を言うことが?
そんな相手、友達じゃない気がする。
でも、だとしたら私は……―――。
「席つけ~」
担任の男性教師の言葉に、私達はすぐに席につく。
私達が全員席についたのを確認し、担任は笑みを浮かべる。
「それじゃあ、早速だが今日は転校生が来てくれているぞ」
その言葉に、何人かの生徒がざわついた。
……あ、女子生徒の大半の目が鋭くなった。
そりゃそうだよね。可愛い女の子だったら、ただでさえ黒田さんがいるのに、さらに男子奪われちゃうし。
カッコいい男の子だったら、自分の彼氏にしたいだろうし。
「それじゃあ入って来て」
担任の言葉に、教室の扉が入る。
それから入って来たのは……背の低い女の子だった。
「……おぉ……」
つい、ため息が漏れた。
それくらいに、転校生の女の子は可愛らしい見た目をしていたのだ。
クリクリした大きな目。童顔で、背の低さも相まって小学生みたい。
そしてさらに特徴的なのは……髪だ。
真っ白。純白と言っても過言ではないくらいに真っ白。
あそこまであからさまな色で何も言われない辺り、地毛なのだろうか?
少女は弾むように歩いて担任の隣に並ぶと、好奇心に溢れた目で教室を見渡していく。
きっと犬だったら、尻尾が大きく横に振れているのだろう。
それくらい、彼女は興味津々に教室をキョロキョロと見渡している。
「それじゃあ、彼女は今日から転校してきた……」
「白田 仔犬です! 今日からよろしくお願いします!」
仔犬……変わった名前だな……。
そう思っていた時、担任の制止も聞かずに、彼女は教室の中を歩き始める。
……気のせいじゃなければ、私の方に歩いてきている気がするんだけど……。
いや、気のせいじゃない。私の顔を大きな目で見ながら、彼女は私の方に歩いて来る。
やがて、私の席の前に立つと、彼女は私の顔を覗き込んで来た。
「ちょっ……!?」
「やっぱり! 美雪だ!」
「へ……?」
突然名前を呼ばれ、私は呆ける。
すると、白田さんは私の机に手をついて、ジッと私の目を見つめて来た。
「ちょ、白田さん……!?」
「岡井 美雪! でしょ?」
「なっ……!?」
なぜ私のフルネームを!?
そう思っていた時、白田さんは私の手を握って、微笑んだ。
「えへへっ。美雪分からない? シロだよ!」
「え……?」
一瞬、思考が停止した。
そんな私に白田さんは笑って、自分の顔を両手で指さした。
「だからぁ、昔美雪に飼われていた、白犬のシロだよ!」
「……えええ!?」
私が叫んだのと、学校のチャイムが鳴ったのは、ほとんど同時だった。