表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬の恩返し  作者: あいまり
岡井美雪編
22/132

第22話 雨

 店を出ると降り注いでいた雨に、私はため息をついた。

 目立つほど大雨というわけでも無いけど、この中を歩いて行こうと思うと帰る頃にはびしょ濡れだ。

 濡れるだけならまだしも、シロが頑張って選んでくれた服を濡らしたくない。

 ビニール袋だけど、破れたり隙間から雨が入る可能性もあるし……。


「雨止まないね~」

「そうだねぇ」


 隣にいるシロの言葉に、私は自分でも分かるくらい適当に返した。

 でも雨って、結構気持ちもジットリするというか。

 こちらのテンションも下がっちゃって、まともに応答する気も失せてしまう。

 すると、対向車線にコンビニがあるのが見えた。

 ハッ。コンビニでビニール傘を買う……?

 全速力で走れば、この雨粒の大きさならあまり濡れずにいけるかもしれない……?


「……雨……か……」


 早速このアイデアをシロに話そうとした時、シロがそう小さく呟いた。

 私が不思議そうに見ていると、シロは私を見て、笑った。


「ホラ、私達が初めて会ったのも、雨が降っていた時期でしょ?」

「……あぁ」


 彼女の言葉に、私はそう声を漏らした。


 あれは、私が小学六年生の頃だった。

 雨が降っている中家に帰る道を歩いていた時、道端に段ボールがあって、中には一匹の白い子犬がいたのだ。

 寒い雨の中放置されている子犬が可哀想だったので、私はその子を拾って、家に連れて帰ったのだ。

 それから、確かシロを飼うことになったのだ。


「そういえば、あそこって田んぼの近くの道だったよね……あっ、もしかして、白田 仔犬って……」

「えへへ……当たり」


 今まで深く考えなかったシロの名前の由来を、今日初めて知った。

 知ったと言うより、私が知っていたことではあるんだけど。

 そう思っていた時、シロが私の袖をクイクイッと引っ張った。


「ん?」

「ねぇ、美雪。……あの時、美雪が私に何て言ったか、覚えてる?」


 キラキラした目で言われた言葉に、私は思考を巡らせる。

 ……やはり小学六年生の頃の記憶だからなぁ……大まかな記憶はあるんだけど、何て言ったかとか、そういう細かいことは覚えていない。


「あー、ごめん。覚えてない」


 そう言った瞬間、シロの顔から一瞬、表情が消えた。

 いつもキラキラした目で、好奇心に溢れた顔が、まるで能面のように無表情になったのだ。

 見間違いじゃないかと、自分の目を疑った。

 しかし、慌てて取り繕おうとした時には、シロはまた笑顔になっていた。


「シロ……?」

「ごめん。なんでもないよ! それより、この雨どうしよっか」

「うーん……あっちにコンビニがあるでしょう? だから、あそこまで走って、傘でも買うのはどうかなって」

「なるほど……それじゃあ早く行こうよ!」

「わ、ちょっと……!」


 止める間もなく、シロはすぐに私の手を引いて走り出す。

 ……無理、してる……?

 でも、なんで?

 ……シロにとって、私がその時言ったことは、大事なことだったの?


 しかし、それを聞く勇気が、私にはない。

 もしそうだとしたら、それを忘れている自分を、シロがどう思ったのか……。

 私はネガティブになった思考を振り払うように首を振り、シロの手を強く握った。

 そうしないと、彼女が、遠くに行ってしまうような気がしたから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ