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犬の恩返し  作者: あいまり
岡井美雪編
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第21話 服屋

「そろそろ恩返しステップ2をするべきだと思うのです」


 とある土曜日の昼前、勉強を終えた私にシロはそう言って来た。

 彼女の言葉に、私は「はい?」と聞き返した。


「急にどうしたの」

「だから、恩返し。もうそろそろ、黒田さんとの関係を深めるべきじゃない?」


 人間としての生活が一週間になるからだろうか。

 シロの言葉遣いが、少し大人びてきた気がする。

 しかし、彼女の言うことは一利ある。

 このままズルズルと引きずるように過ごしていてもアレだし、そろそろ進展をね。

 大分クロとは仲良くなってきたが、あくまでこの恩返しは恋人になるための軌跡のようなものだ。


「それは構わないけど……具体的には何をするの?」

「フフッ。第二弾は~……」



 というわけで連れてこられたのは、近所の服屋さんだった。

 基本的に服は母の通販に任せている私にとって、その服屋さんがどんな場所なのかはよく分からない。

 しかし、シロに腕を引かれるまま、入店してしまった。


「ちょ、シロ落ち着いて」

「良いから良いから」


 笑顔で言うシロに、私はため息をつく。

 シロによる犬の恩返し第二弾は、「身だしなみをちゃんとしよう!」だった。

 身だしなみと言えばやはり服装のことであり、オシャレな私服を買おうと二人で服屋さんに行くことになった。


「この服すごく似合ってる~!」


 ノリノリで私に服を合わせてくれてるシロを無下にするわけにもいかない。

 それに、休日なんて基本暇を謳歌しているだけだし。

 そう思っていた時、ポケットの中でスマホが震えた。

 画面を見ると、それはなんと妹の美香だった。


「もしもし?」

『あ、もしもしお姉ちゃん?』

「どうしたの。急に電話なんて」


 私が聞くと、電話の向こう側で美香が口ごもるような雰囲気を感じた。

 なんだよ早く言えよ。

 急に電話をし始めたからか、シロが不思議そうな目で見ているので、私は人差し指に手を当てて静かにしているように諭した。


『あ、あのさぁ……今、仔犬お姉ちゃんと出かけてるの?』


 美香の言葉に、私は「そうだけど?」と聞き返す。

 すると、美香が微かに息を呑んだのが分かった。

 だから何だよ。


『え、どこにいんの』

「えっと……近所の服屋さん。店名覚えてないや……なんか建物が青いんだけど」

『あぁ、あの最近出来た……なんでわざわざ? 別に私服困ってないじゃん』

「私にだって色々あるの。もう切るよ」

『あ、ちょっ……』


 美香の制止の声も聞かず、私は電話を切った。

 しかし……と、少し考える。

 今まで私が友達と出かけた時には、わざわざ電話して確認なんてしてこなかったのに、なぜ今回だけ?


「美雪~!」


 その時、白い髪の天使が天の羽衣を持って現れた。

 あぁいや、シロが服を持ってこちらに小走りでやって来るのが見えた。

 恐らく、私が美香と電話している間暇だったので、私に似合う服を探して来たのだろう。

 そう思っていた時、突然足を滑らせ、前のめりに転びそうになる。


「危ない!」


 私は叫び、慌てて彼女の体を支えた。

 なんとか立たせると、シロはポカンとした間抜けな表情で私を見ていた。

 しかし、しばらくして我に返り、ハッとした表情で私を見た。


「えっと、大丈夫? 怪我とか」

「大丈夫! ありがとう、美雪!」


 そう言って笑顔を浮かべるシロに、私は一息ついた。

 それからシロが持ってきた服の値札を見ると……うん。この値段は買えない。


「今更だけど、もしかしてこのお店って全部この値段?」

「そうだよー」


 シロの言葉に、私はすぐに服を戻させた。

 そもそも服屋に行かないから、近所の服屋の相場など知らない。

 それに、美香の言葉を思い出す限り、どうやら最近出来たお店みたいだし。

 シロを促し、私達はお店を出た。


「なんで~? 何も買ってないよ?」

「別のお店にしよう? あそこのは、値段が……」


 私の言葉に、シロはしまった、という表情をした。

 まぁ、シロには悪気もないししょうがない。

 落ち込むシロを慰めつつ、私はネットのマップで近所を調べて、全国にチェーン店のある有名な服屋さんに行った。

 そこの値段は割と安いので、そこで私服は揃えた。

 そして帰ろうとした時……外は雨が降っていた。

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