第2話 飼い犬
やっと授業が終わった。
私はすぐに荷物をまとめ、いの一番に教室を飛び出した。
こんな息苦しい空間、一刻でも早く抜け出したかった。
自転車に跨り十五分漕いで、家に着く。
「ただいまっ!」
「ワンッ!」
自転車をとめて家の庭に真っ先に向かうと、すぐに飼い犬のシロがこちらに走って来るのが見えた。
「待て!」
そう言って見せると、シロはすぐにピタッと止まる。
「おすわり」と言ってやると、大人しく座った。
「よーしよしよし。良い子だなぁ」
そう言いつつ頭を撫でてやると、気持ちよさそうにする。
それから私は家に入って自室に行き、荷物を置いて動きやすい恰好に着替える。
長袖長ズボンの地味な恰好に身を包み、シロの散歩用の道具が入った大き目のポーチを腰に取り付けて、家を出た。
未だに良い子におすわりをして待っているシロの首輪から鎖を外し、リードに繋げる。
「よし、行くよ! シロ!」
「ワンッ!」
元気に返事をするシロに笑い、私とシロは外に出た。
シロは、この間五歳になった飼い犬だ。
種類は雑種犬で、毛色が白いからシロという安直なネーミングだ。
性別は雌で、人懐っこい可愛らしい性格だ。
小学六年生の時、帰り道でシロを拾ったのが始まりだった。
それから家族で育てているのだが、シロはなぜか私には人一倍懐く。
他の家族にも懐くのだが、私に一番懐いている。
だから、基本シロの世話は私がするようにしている。
私だってシロのことは大好きだし。
そんな風に想いを馳せていた時、公園に着いた。
早速私はシロのリードを外し、ポーチからボールを取り出す。
「よーし、シロ! 取って来い!」
「ワンワンッ!」
元気に吠えるシロ。
思い切りボールを投げると、シロはそれを追いかけて走り出す。
ボールが二度バウンドした時、シロはそのボールをしっかりと咥え、私の元まで駆け戻って来る。
「よしよし。良い子だね」
嬉しそうに戻って来たシロの頭を撫でて、私はまたボールを投げる。
それから数度ボールを投げては取って来させる遊びをしていた時、空が茜色に染まり、どこからか五時を知らせる「夕焼け小焼け」が聴こえて来た。
「もうこんな時間か……よし。シロ、帰るよ」
「ワンッ!」
目の前まで駆けてくるシロの首輪にリードを取り付け、私達は家に帰る。
途中シロが大便を催したが、ちゃんとスコップとレジ袋で片づけた。
家に帰り、シロの首輪に鎖を取り付けると、私はすぐにブラシでシロの毛並みを整える。
「女の子は身だしなみもちゃんとしないとね~」
そう言いつつ白くてフサフサした毛を整えてやると、シロは嬉しそうに鳴く。
それから一通りシロの毛を梳いたあとは、家族より先に晩ご飯の時間だ。
「シロ。待て」
「ワンッ!」
おすわりの姿勢でちゃんと待つシロ。
私はドッグフードを取り出し、シロの餌皿に入れて行く。
カラカラと小気味いい音を立てながら、乾燥した小粒の餌が皿の中に入っていく。
物欲しそうにそれを見ているシロに笑いつつ、私はその餌をシロの前に置いた。
「シロ、食べて良いよ」
「ワンッ!」
私の言葉に、すぐにシロは餌に食いつく。
シロが餌を食べている間に、私は水を地面に捨て、家に戻って新しい水を入れる。
それから庭に戻ると、空になった餌皿を前に舌を出して「ハッハッハッ」と嬉しそうに呼吸するシロの姿があった。
「おぉ~。全部食べたねぇ、偉いねぇ」
そう言いつつ頭をワシャワシャと撫でると、シロは嬉しそうに目を細めた。
それから水が入った皿を前に置くと、舌で器用に水を飲んでいく。
すると、庭に隣接しているガラス戸を開けて、妹の美香が顔を出した。
「お姉ちゃん。そろそろ晩ご飯だよ」
「あ、うん。分かった」
私は立ち上がり、一度シロの頭を撫でてから、家に入った。