第19話 ゴンドラ
放課後は、シロを連れてデパートに行った。
シロが純粋に楽しめる場所を考えると、正直かなり悩んだ。
ゲームセンターやカラオケなどの王道に連れて行っても、きっと彼女は楽しめない。
考えた挙句、私はデパートの屋上に連れて行ったのだ。
「わぁ……!」
屋上には、簡単な遊園地がある。
最も、遊園地と言っても、簡単な遊具がいくつかと、観覧車がある程度だけど。
しかし、それだけでもシロの好奇心をくすぐるようで、すぐに色々見て周り始めた。
少子高齢化や、その他諸々による事情により、全国でもこうして屋上に遊園地があるデパートというのはかなり少ない。
ここの遊園地も、屋上に上がる道中に貼ってあった広告を見たところ、もうじき無くなってしまうらしい。
しかし、子供でも気軽に遊べる場所だし、折角だから観覧車くらいにはシロを乗せてみたいと思ったのだ。
「美雪~! このお馬さん乗ってみたい!」
そんな私の思惑に反してシロが真っ先に選んだのはメリーゴーランドだった。
まぁ良いけど……一回二百円だし……。
それから一通り小さな遊園地を楽しみ、シメに二人で観覧車に乗った。
「わぁ……たかーい!」
「あまりはしゃがないようにね。この観覧車古いから、何があるか分からない」
私の言葉に、シロは「はーい」と言って笑った。
それから私達の乗ったゴンドラが頂点に達した時……突然、動きが停止した。
景色が止まり、ガクンッとゴンドラが揺れる。
幸い、私もシロもちゃんと席に座っていたので、それで誰かが怪我するような展開は無いのだが。
「み、美雪……止まったよ?」
「……知ってる」
私がそう答えた時、ゴンドラに付いているスピーカーから『大丈夫ですか?』と声がした。
声の主は、恐らく観覧車の根元にある建物にいたおじさんかな。
私はすぐに「大丈夫です」とマイクに向かって言った。
『状況はどんな感じですか?』
「女子高生二人です。怪我人はいません。あの……何があったんですか?」
『恐らく機材の不具合です。こちらで出来ることをしてみますが、最悪救助隊などを呼んで……』
「そうですか……」
中々大事になりそうだった。
私は、ただシロに楽しい思い出を作ってもらいたかっただけなのに……。
それから一通り話したところ、後で払った金は返金してくれるらしい。
観覧車だけで良いのに、他の遊具に払った金も出してくれるそうだ。
タダで楽しめたわけだね。やったね。
「美雪……」
現実逃避をしようとしていると、シロが不安そうに名前を呼んだ。
あぁ、ここで現実から逃げたらシロが置いてけぼりになる。
シロにとっては慣れない人間としての生活での事故だ。私が逃げてどうする。
「シロ……大丈夫だよ。しばらくはこのままだけど、いずれ直るだろうし、最悪救助隊とかが来るらしいから、家には帰れるからさ」
「本当……?」
「ホントホント。……あっ、家に帰るのが遅れること電話した方が良いかな」
そう言いつつ、私は鞄に手を入れる。
えっと、スマホは……あった。
鞄の奥からスマホを取り出し、母に電話した。
事情を話すとかなり心配していたが、大丈夫だと宥め、電話を切った。
息をついていると、シロが未だに向かい側の席で私を不安そうに見つめていた。
「シロ……?」
「美雪……隣行っても良い?」
不安そうに聞いてくるシロに、私は「良いよ」と笑顔で応じて見せた。
それから横にずれて一人分座れるスペースを作ると、シロは嬉しそうに笑って席を立ち、私の隣に座る。
「美雪……本当におうちに帰れる?」
「大丈夫だって。心配しなくても、なんとかなるよ」
私の言葉に、シロは眉を八の字にした。
そんなに不安なのか……まぁ、気持ちは分かるが。
しかし、ここで私まで不安であることを言ったら、彼女を余計に心配させてしまう。
だから私は平気なフリをして、彼女の肩を抱いて、ポンポンと叩いてあげる。
「なんかね、美雪にくっ付いてると、安心する」
「今朝も似たようなこと言ってなかった?」
私の言葉に、シロはヘラッと笑って、「そうだっけ」と言った。
「そうだよ」と返して見ると、「そっかぁ」と重たい声で言って、私に体重を預けていた。
小柄で華奢な体は私の腕にスッポリ収まった。
「シロ……?」
「……」
不思議に思っていると、寝息が聴こえた。
安心して眠ってしまったのか……。
顔を覗き込むと、そこには、安らかに眠る可愛らしい寝顔があった。
私はそれに笑い、シロの肩をトントンとゆっくり優しく叩いた。
それから、ゴンドラが動き出したのは十分後くらいだった。
思いのほか早く動き出したが、グッスリ眠るシロを起こすのが申し訳なかったので、ゴンドラを出るギリギリまで寝かせておいた。
シロを起こしてゴンドラから下りると、従業員であるおじさんに何度も謝られ、遊園地で使ったお金を返金してもらった。
色々バタバタしたが、なんだかんだで、私とシロのお出かけは無事に終わった。




