第16話 温もり
「それで、今日から黒田さんと私をくっ付けるために動き出すんだっけ?」
朝。学校に行く道を二人で歩きながら、私はそう聞いてみた。
そんな私の言葉に、シロは大きく頷いた。
「うんっ! そうだよ!」
「えーっと……具体的には、どんな風に?」
「えへへ、それはお昼ご飯までの秘密だよ~」
口に人差し指を当てながら、シロはそう言って笑う。
まぁ、たまにはシロの好きにさせてみるのも良いのかもしれない。
今回の件で仮に失敗しても、別にデメリットは無い気がするし。
「……そういえば、シロ」
「ん~?」
「今日の放課後、どこか遊びに行ってみない?」
なんとなくそう聞いてみると、シロは何かに弾かれたように私を見た。
すごくキラキラした目。
ここまで反応するとは思っていなかったので、私は少し面食らう。
「遊び? どっか行くの!?」
「え、うん……折角シロがこうして人間になったんだし、人間らしい遊びでもしようかと」
私の言葉に、シロの顔がさらにキラキラと輝く。
「えっとね~、じゃあ公園でボール遊びを」
「却下」
即答で否定すると、シロは「え、なんで~」と不満を口にする。
なんで~じゃないよ! 何が悲しくて人間態のシロにボールを投げて取ってこーいとかさせないといけないんだ!
絶対に不審者認定されるわ!
「他に無いの? 行ってみたいお店とか」
「無いよ~。だって、どんなのがあるのかとか、知らないし~」
そう言って頬を膨らませるシロに、私は「あぁ……」と声を漏らした。
確かにそうだ。
シロはずっと犬として生きて来たのだから、この町に何があるのかとかもよく知らないだろう。
そうなると、確かにシロにとっての楽しい場所と言えば、公園しかない、か……。
一瞬、脳内にボールを咥えて走って来るシロの姿が浮かび、私は慌てて首を横に振ってその思考を振り払った。
「……それに、私は美雪と一緒なら、どこでも楽しいよ?」
そう言ってコテンと首を傾げるシロ。
彼女の言葉に、私は一瞬足を止めた。
……私と一緒ならどこでも……か。
「そっか……じゃあ、放課後は私が楽しいって思う場所に連れて行ってあげる」
「ホント!?」
「うん」
「わーい! 早く放課後にならないかな~」
そう言いながら、弾むように歩き出すシロ。
彼女の様子に私は苦笑し、後を追いかけて小走りをする。
それから隣に並んだ時、手を繋がれた。
「ん?」
「えへへっ。美雪の手ギュッてするとね~、なんか安心するの」
笑顔でそう言われると、なんだか恥ずかしくなる。
しかし、彼女の手を振り払う理由も無かったので、私は優しく握り返した。
すると、シロは嬉しそうにはにかんで、私に体を寄せてくる。
「シロ。くっつきすぎると歩きにくいよ」
「えへへ~。美雪あったかい~」
嬉しそうに笑うシロに、私はため息をつく。
でも、彼女から伝わって来る温もりが、彼女が生きていることを感じさせる。
「……うん。私も」
私がそう返事をして見せると、シロは笑った。
温かい。
体と……心が。
 




