第15話 神様
「もしシロの未練が解決したら……彼女はどうなるんですか?」
私の言葉に、神様は僅かに目を丸くした。
動ける範囲で身を乗り出しながら、私は続ける。
「シロは……どうなっちゃうんですか!?」
「……お前は、どうなると思う?」
その言葉に、私は固まる。
私の様子に神様は首を横に振り、黒板の縁に手を掛けて体重を預けた。
「……死ぬん……ですか……?」
そう聞いた声は、震えていた。
改めてシロの末路について考えた結果、彼女を失うことへの恐怖が蘇り、体が震えた。
恐らく青ざめているであろう私の顔を見て、神様はため息をついた。
「なんだ、分かっているじゃないか」
その言葉に、私は血の気が引いたのを感じた。
分かっていた。きっとそうなるだろうということは、なんとなく、察していた。
でも……。
「まぁ、当然か。あの獣の命は、すでに死んでいるもの。それを強引に人間に転生させて、人間の中でも溶け込めるように色々世界での常識を弄り回したのだから」
「なんで、そこまでシロに尽くしてくれるんですか?」
ついそう聞くと、神様はフッと優しく笑った。
「あの獣が、私をここまで熱くさせるほど、現世に未練を持っていたからだ」
その言葉に、私は何も言わずに身を引いた。
つまり、今シロが人間として私の傍にいる理由は……結果として、私が原因ということか。
ということは、シロの死をまた見ないといけないのは、自業自得ということになる。
……私のせいで……シロは……。
「何を悩む必要があるんだ?」
その時、そんな声が聴こえた。
咄嗟に顔を上げると、そこには、優しく微笑む神様の姿があった。
ちょうど窓から差し込んで来た光が彼の顔を照らして、その風貌は、正におとぎ話などに出てくるような神様みたいだった。
「シロちゃんは、全て知っている。自分が未練を解決した後どうなるのか、も。だから、お前が気に病む必要はない」
「でも……!」
「もしそんなに気になるのなら……彼女も、自分も。双方が悔いを残さないように、精一杯頑張れば良い」
そう言いながら、神様はゆっくりと教壇を離れ、続ける。
「大丈夫。お前ならやれる」
そう言って、私の頭に優しく手を置き、少し撫でた。
大きな手。温かい手。これが……神様っていうものなのか。
「……ありがとうございます」
「フッ……良い目だ。ただの小娘かと思ったが、思い過ごしだったな」
そう言って神様は私の頭から手を離し、窓の外に目を向ける。
「もう朝か……そろそろ目覚める時間だ」
「へ……?」
「時は金なり、だからな」
そう言って神様は、パンッと音を立てて手を叩いた。
すると、私の意識は落ちて、闇に沈んでいく。
そして……―――。
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ピピピピッ。ピピピピッッ。
スマートフォンから出る電子音に、私は重たい瞼を開いた。
今のは……夢?
いや、今でも、あの教室で味わった感触や、あそこで起こった出来事が鮮明に思い出せる。
多分、夢ではないのだろう。
「むにゃ……みゆきぃ……」
そして目の前では、安らかな寝顔でそう言うシロがいた。
白い髪。可愛らしく整った顔。
試しに彼女の髪を優しく撫でると、「んぅ……」と重たい声を漏らし、目を開けた。
ぼんやりした目で私を見ているシロに、私は笑って見せた。
「おはよ、シロ」
私の言葉に、シロは嬉しそうに笑った。
さぁ、今日も一日が始まる。




