第14話 夢
目を開けると、そこは、教室だった。
机は縦横それぞれ五つずつで、私はそのど真ん中の席に座っていた。
これは……何だろう。
ぼんやりと考えていると、扉がガララッと音を立てて開けられた。
「やっと来たか」
そう言って教室に入って来たのは、一人のおじさんだった。
でも、中々顔は良い方だと思う。
シルバーヘアに、彫りの深い顔。ほうれい線が、中々良い味を出していると思う。
彼は髪と同じ銀目で私を見つつ、教壇の方に歩いて行く。
「えっと……貴方は?」
「む……名が気になるか。まぁ当然か。突然こんな場所に連れてこられてはな」
まるで私の気持ちが分かるかのような言葉に、私は戸惑う。
そんな私の反応が面白かったのか、おじさんは緩く笑い、教壇に膝をついて私の方に身を乗り出してくる。
教壇から私へは距離があると思うが、なぜか、目と目を合わせただけで全てを見透かされたような気持ちになった。
まるで心を直接見られているような感覚で、なんだかむず痒い。
「ふむ……あの獣があれだけの未練を持つ相手だから、どんなかと思えば……ただの小娘か」
「ただの小娘で悪かったですね」
つい言い返すと、おじさんは驚いた様子で目を見開き、「いや……案外面白いかもしれない」と相変わらず緩く笑いながら言った。
関係ないけれど、そろそろこの状況について説明をしてほしい。
そんな私の心情が伝わったのか、おじさんは「それもそうだな」と言って体を起こした。
「君の記憶だけは弄っていないハズだから、分かるハズだろ? シロちゃんって女の子のこと」
「……あぁ」
彼の言葉に、私の脳裏にシロの顔が浮かんだ。
白犬の時と……人間になった時の。
そこまで考えて、私は咄嗟に立ちあがろうとした。
しかし、椅子に体が固定されているような感覚がして、すぐにガクンッと体が前に倒れる。
「無駄だ。お前と話すために、強引にお前の魂を呼び寄せているからな。大幅に動いたりとかは出来ないぞ」
「ッ……貴方は……神様、なんですか……?」
私の言葉に、おじさん……もとい神様は何も答えない。
不思議そうな目で、ただジッと私を見ていた。
私は身を乗り出し、続ける。
「シロを生き返らせたのは……貴方なんですか!?」
「……そうだ」
その言葉に、私はしばらくポカンと口を開けて固まった。
今まで神社などで拝み、テストなどになると苦し紛れに頼って来た相手が今、目の前にいるのだ。
思考がしばらく停止してしまった。
「な……なんで神様が、私、なんかのところに……」
なんとかそう声を振り絞って聞いてみると、神様はキョトンとした表情をした。
「だから、シロちゃんの未練がどんな奴なのか見に来ただけだって。思いのほか普通でガッカリしたけど」
「あ、そうですか……」
意外と神様のノリは軽かった。
その時、とあることを思い出し、私は手を挙げた。
「あのっ! 二つほど聞きたいことがあるのですが……!」
「なんだ?」
神様の言葉に、私は姿勢を正し、口を開いた。
「まず一つ目は……神様って、髪の短い女の子が好きなんですか?」
「は?」
私の質問が予想と違ったのか、神様は呆れた様子で聞き返す。
神様は常に人の心くらい見透かしているのかと思ったが、先程感じた心を直接触られる感覚が無いので、恐らく何か特別な力でも発動しないと見れないのかもしれない。
そう思っていると、神様は口を開いた。
「いや……別にそういうわけではないが……なんでだ?」
「……シロの髪が短かったし、彼女は自分の見た目を選んでないと言ったので、もしかしたら神様にそういう趣味があるのかと思って」
私の言葉に、神様はしばらく目を丸くした後で、声をあげて笑った。
大きな笑い声が私と彼以外誰もいない教室に響く。
「はっはは……いやぁ、面白いことを言うな、君は」
「……それじゃあ、シロはなんで今の見た目に?」
ついそう聞いてみると、神様は目尻に溜まった涙を拭いながら口を開いた。
「いや、単純に、彼女は活発な性格をしていたから、髪が短い方が動きやすいかと思っただけだよ」
「髪が白いことや、顔が良い事は?」
「人間からすれば、顔が良くて困ることはないだろ? 髪が白いのは、元々の毛色に合わせた方が人間の体を作りやすかったのと、目印にしやすいかと思って」
「そんな問題ですか……」
とはいえ、多少不思議に思っていたことが解決できて、私は少しスッキリした。
「それじゃあ、次の質問なんですけど……」
そこまで言って、私は一呼吸ついて、口を開いた。
「もしシロの未練が解決したら……彼女はどうなるんですか?」
 




