エピローグ
「ふぅ……」
息をつき、私は本を閉じた。
一匹の犬が起こした恋の物語はここに完結……と。
想像通り、彼女を転生させると中々面白かった。
「全く……また面白半分に誰か転生させたんスか?」
その時、そう声を掛けられた。
顔を上げると、そこには、金髪の見習い天使の一人が立っていた。
「おや……リエルじゃないか。どうした」
「どうした……じゃないスよ。貴方の面白半分での転生の後始末は俺等がやるんスからね。少しは考えて下さい」
「ははっ……すまないな。ただ、普通に人間界を守護するのも退屈なのだ。たまの暇つぶしだ」
私の言葉に、見習い天使はさらに大きなため息をついた。
それに私は苦笑しつつ、立ち上がって本を持つ。
「ただ、今回の魂はいつもより面白かった。人間の心理とは面白い」
「はいはい……って、それで味をしめてまた獣の魂を転生させたりしないでくださいよ!?」
「分かっているさ。……今回の件は、私の心にしまっておこう」
そう呟いてから、私は窓から本を投げ捨てた。
確かに私の心にしまってはおくが……これを誰も知らないでいるのは勿体なく感じた。
まぁ、運が良くて誰かが読む。
その誰かが公表したりすれば、運が良い方か。
「あ、ちょっと何やってんスか!」
見習い天使がそう文句を言ってくるのを無視しながら、私は軽く伸びをした。
……おっと、どうやら見習い天使での浄化が難しい魂が現れたらしい。
私は部屋を出て、その見習い天使の元に向かった。
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……思いつかん……。
昼休憩の真っ只中。
とある中学校の、窓際の一席。
目の前には、真っ白なページのノート。
シャーペンで机を小さく叩きながら、私はため息をつく。
私は、インターネットで百合小説を書いている。
百合というのは、女の子同士の恋愛のことだ。
物凄く人気というわけでもないのだが、まぁ、ある程度のファンは確保している。
結局は趣味の範疇なのだが、やはりある程度ファンがいると中々やめられない。
おかげで今年は受験生だというのに、こうして執筆三昧だ。
次回……どうしようかなぁ。
そう悩んでいた時、窓の外を何かが通り過ぎていった。
「……ん?」
突然のことに、私はしばらく呆けた。
今、外に何かが……。
そう思って窓から下を覗き込むと、植え込みの中に分厚い本が引っ掛かっているのが見えた。
……なんだアレ。
どうやら気付いているのは私だけのようで、他の生徒達は何事もなく雑談をしている。
仕方がないので私は教室から出て、本の所に向かう。
私達の教室が二階だから、三階からの落とし物かなぁ。
そう思って本を植え込みから取り出した時、違和感を抱いた。
まず、表紙に何も書いていない。
ブックカバー……というわけでも無さそう。
やけに表紙はしっかりしているし、中の紙も高級そうだ。
背表紙を見ると、そこには文字が書いてあった。
「『犬の恩返し』……?」
「何をしてるの?」
突然声を掛けられ、私はビクッと肩を震わせた。
慌てて振り向くと、そこには、隣のクラスの岡井 美香さんが立っていた。
彼女は私を見て不思議そうに首を傾げた。
「こんなところで……日向ぼっこ?」
「いや、こんな物が落ちてきて……」
私はそう言いつつ、先ほど拾った犬の恩返しとやらを見せる。
すると岡井さんは不思議そうに首を傾げて、私から本を受け取る。
「これは……?」
「なんか、さっき落ちてきて、気になって拾いに来たんだ」
私の言葉に岡井さんは不思議そうな表情で本を広げた。
数ページ読んだところで突然顔を真っ赤にした。
……?
「どうしたの?」
「な、何でもない! こ、これは私が預かって……」
「あ、美香。こんなところにいた」
そう言って現れたのは、岡井さんと同じクラスの渡部 千沙さんだ。
二人は同じクラスだし、今は引退したが同じ部活だし……噂では、付き合っているらしい。
本人達は否定してるけどね。
渡部さんは岡井さんの前に立つと、強くデコピンをした。
おや?
「こんなところで何油売ってんの……さっき進路のことで先生が呼んでたよ」
「いったぁ……マジ?」
「マジ。ていうか北條さんに迷惑掛けないの。ごめんね?」
そう言って謝って来る渡部さんに、私は首を横に振った。
ていうか、今更だけど、この二人ってかなりスクールカースト高いんだよね。
私みたいな陰キャが絡んで良い人達じゃない。
ここはさっさと断ろうか……と考えている間に、突然渡部さんが本を渡してきた。
うん?
「ハイ。これは北條さんに返して。ホラ、行くよ」
「あ、ちょ、待って……! 北條さん! 絶対にその本は開けないでね!」
そう叫びながら渡部さんに連行される岡井さん。
うーん……開けるなと言われると開けたくなるよね。
しかもこんな、明らかに怪しい本。開けますよ。そりゃあ。
とはいえ、流石に今すぐ開けるというわけにもいかない。
まず、外だし。
ていうか、岡井さんはなんでここにいたんだろう?
……まぁいっか。
とはいえ、この本からは不思議な魔力的な何かを感じるなぁ。
もしかしたら、何か、小説のネタになることがあるかもしれない。
私は本を胸に抱き、教室に向かって歩き出した。
これにて本編は完結とさせて頂きます。
今まで読んで下さりありがとうございました。
明日と明後日で、少し早いクリスマスの番外編を投稿する予定です。
最後まで付き合って頂けると幸いです。




