第43話 初めまして
生まれてすぐに、私は家族から捨てられた。
私が生まれた家はそこまで裕福ではなく、犬を飼う余裕が無かった。
同じ時期に生まれた子供は皆里親が決まったが、私は最後まで里親が決まらなかった。
そして、これ以上は面倒を見切れないということで、私は捨てられた。
段ボールの中に入れられ、私は路上に捨てられた。
最初は疑問だった。
なぜ私が捨てられないといけないの?
私は何も悪いことをしていないのに。
しかし、しばらくして、徐々に命の危機を抱くようになる。
このままでは死んでしまう。
もう、なぜこんなことになっているのかとかどうでもいい。
誰か助けてくれ。誰か、助けて欲しい。
けど、どんなに叫んでも、結局それは鳴き声にしかならない。
私の言葉は、道行く人々に届かない。
いよいよ私は死を覚悟した。
喉は嗄れて、すでに誰も助けてはくれなかった。
このまま、人知れず死んでいくのだろうか。
そんな風に考えていた時だった。
「おや……捨て犬ですね?」
そんな声がして、私は顔を上げた。
目の前には、二人の少女が立っていた。
その内の一人の少女が、「そうだね」と言って近づいてきた。
「――?」
片方の少女が、近づいて来る方の少女に何か呼びかける。
しかし、その声を聞き取ろうとしていた時、目の前に少女が近づいてきた。
……綺麗。
それが、私が彼女に抱いた感想だった。
綺麗。前に住んでいた家で見た人形のように、整った顔立ち。
肌も白くて、黒い髪がよく映える。
「美雪、どうしたのですか?」
「……この子、シロに似てるんだ」
可憐な少女は、美雪、と呼ばれた。
美雪……彼女は、美雪という名前なのか。
――美雪――。
一度、彼女の名前を呼ぼうとした。
しかし、何度も鳴いていたせいか声は掠れ、音にもならない。
そんな私を見て美雪は微笑み、頭を撫でてくれた。
あっ……気持ち良い……。
顔を上げると、美雪は優しく笑った。
「……初めまして。ねぇ、貴方は……一人ぼっちなの?」
……違和感。
初めて抱いた感情は、それだった。
なぜだろう。よく分からないけれど……『前と違う』って……思ったんだ。
首を傾げていると、美雪は優しく笑って、私の体を抱きあげた。
そしてソッと私の体を抱きしめて、背中をさすってくれた。
「大丈夫だよ。……私がいるからね」
もう一人ぼっちじゃないからね、と。
彼女は言ったんだ。
その言葉は、なぜか私の心に深く溶けて、染み込んでいくような感じがした。




