第42話 白
全てが白に染まった世界。
そこに、私は佇んでいた。
いや、浮遊している? ……よく分からない。
「お疲れ様、とでも良いのか?」
そう言って微笑むのは、神だった。
お久しぶり神。
「あぁ、久しぶり」
おー。喋らなくても会話できる。
「君はすでに魂だけの存在だからな。思考は垂れ流しだぞ」
へー。神のバーカバーカ。
「……今すぐ地獄送りにしてやろうか?」
……良いよ。
別に、もう生まれ変わりたいとは思わない。
このまま消えてしまうなら、それでも良い。
「……すっかり未練も消えて、スッキリしているな」
そうかな。
「まぁ良い。それで? これからどうする?」
……これから?
「あぁ。魂っていうのは、一度浄化して綺麗にして、また別の生命として生き返らせる。そうして、命は循環していくんだ」
へー。
私難しいことよく分かんなーい。
「……もう、その可愛いシロちゃんの演技は止めても良いんじゃないか?」
んー……まぁ良いや。
この演技するのも意外と楽しいよ。
神もついでにどう?
「いや、良い。やめておく。……で? どうするんだ? これから」
どういうこと?
「君は一度人間として生きた。短期間ではあるが、それにより、君は人間として生きる選択肢が出来た」
……人間として……?
「あぁ。全ての記憶を失って、一人の人として生きる。……そんな道だって選べるんだ」
人間としての……生……。
私の脳裏に、美雪達の顔が浮かぶ。
そして、白田仔犬として生きた記憶が蘇る。
……私は……。
「さぁ、どうする?」
……私は、人として生きたくはないや。
「……それはなぜ?」
だって、人間って複雑なんだもん。
恋とか嫉妬とか、色々。
……だから私は、馬鹿なままがいい。
恋なんて知りたくなかった。
馬鹿で単純な犬が良かった。
あんな辛い想い……もうしたくないよ。
「……そうか」
神はそう呟くと、私に向かって手を掲げてきた。
一体、何をするつもりなのだろう。
そう考えていると、神様の姿が徐々に白くなっていく。
……違う。私の意識が、白く染まっているんだ。
「少し、眠りなさい。順番が来たら、自然と、目が覚めるよ」
目が覚める……それはつまり、また別の魂としての命が始まるということだろう。
つまり、ここで完全に眠ったら、美雪達のことも全部……忘れる。
後悔は無かった。
美雪は私にたくさんの物をくれたから。
彼女が幸せになったなら、私はそれで満足だから。
自分でも驚くくらい清々しい気持ちで、私はその白に、自分の意識を落とした。




