第40話 公園
それからしばらく駆けて、着いたのは、美雪とよく来ていた公園だった。
なぜここに来てしまったのだろう。
自分でも何も考えずに走ってきたので、不思議でたまらなかった。
……帰ろう。
心の中で呟き、踵を返そうとした。その時だった。
足元に、ボールが転がってきたのは。
「……」
「すいませーん!」
そう言ってこちらに走って来る男の子。
それに、私は屈んでボールを拾おうとした。
「あ、れ……」
しかし、腰を曲げても、ボールに手が届かなかった。
あれ……おかしいな……少し前までは、口で拾えていたのに。
そう思いつつ膝を曲げて、手でボールを拾う。
顔を上げると、こちらに駆けてくる男の子が見えた。
ボールを差し出してあげると、彼はボールを受け取って、満面の笑顔を浮かべた。
「ありがとう! お姉ちゃん!」
「いや、私は……」
私が咄嗟に断ろうとすると、男の子はそれより前に踵を返し、走って行く。
その後ろ姿に手を伸ばそうとして、私は動きを止める。
あの子……私より、背が低い……?
「あ、え……?」
グラグラと、視界が揺らぐ。
腰から力が抜け、私はその場にへたり込む。
突然のことに動揺しつつも、私は額に手を当てる。
そしてハッとして、その手を見る。
……私は……人間なんだ……。
当たり前のことだと思うかもしれない。
でも、心のどこかで……これが、悪い夢なんじゃないかと思っていたんだ。
きっと、目が覚めたら、美雪が笑ってくれて、いつも通りの日々が送れる。
そう思っていた。
でも違った。
これは……現実だ……。
「ぁ……ぁぁ……」
なんで、今になって気付いたんだろう。
なんで、今になって現状を理解したんだろう。
分からない。分からない。
しかし、頭のどこかでは分かっていた。
まず、私の近くには、美雪が一緒にいた。
ずっと傍に……では無かったが、私にとっては美雪が全てだった。
美雪以外の全てに、関心が無かった。
しかし、美雪との決別を決意し、無意識に彼女との思い出の場所に来てしまって……他の物に興味が湧いてしまった。
この場所には、美雪との思い出が詰まっている。
そして……その思い出と、現実で目にした物に……誤差が生まれた。
その誤差で、気付いてしまったんだ。
自分がもう……あの頃に戻れないということに。
「……そっか……」
小さく呟いてから、私はフラフラと立ち上がる。
茜色に染まる公園を見つめながら、私は呟いた。
「私、もう……美雪と一緒に、いられないんだ……」
そう呟いた瞬間、大粒の涙が頬を伝う。
もう……あの頃には戻れない。
だったら私は、本当に、もう……――。
「シロ……」
――掠れた声がした。
聞き覚えのある声だった。
私が……世界で一番愛した声だった。
「……!」
私は咄嗟に涙を拭い、振り返る。
そこには……美雪が立っていた。




