第37話 揺らぎ
「美雪~!」
私が美雪の名前を呼びながらゴンドラから飛び出すと、美雪は突然その場にへたり込んだ。
それに、黒田さんが慌てた様子で美雪を立たせようとするので、私もそれに協力する。
急にどうしたのだろうか……。
色白の美雪だが、今はそれ以上に顔色が悪いように見える。
「ねぇ、シロ、美香。……報告があるんだけど」
少し疲れたような表情で、美雪は言う。
美雪から報告!
私はそれにワクワクしつつも、いつもの無邪気な演技で「なぁに~?」と尋ねた。
すると美雪はフッと笑ってから……黒田さんの手を握った。
「実は、私とクロは……今日から、付き合うことになりました」
……は?
その一言を聞いた瞬間、私の頭の中は真っ白になる。
演技をするのも忘れて、笑顔で固まった。
美雪と、黒田さんが……付き合う?
「えっ、付き合うことになったって……いつの間に?」
その割に、口は無意識に動いた。
そう、いつの間に?
もしかしたら、美雪が冗談を言ったのかもしれない。
そう、そうだよきっとそうだ。
美雪普段冗談なんて言わないから、笑えない冗談なんだ。
きっと美雪はすぐに否定してくれるハズ。そう、そうだ。きっと……!
「……さっき観覧車に乗った時に」
しかし、美雪は否定しなかった。
私はそれに、顔が歪むのを感じた。
いや、ダメだ……悲しんだらいけない……。
そもそも、これは私が望んでいた結果だろ?
美雪と黒田さんが付き合う。それが、私の恩返しだったハズ。
そうすれば、私の未練も無くなって、成仏出来るハズ。
そのハズ……なのに……。
「……おめでとう」
私は、振り絞るようにそう呟いた。
あぁ、ダメ、ダメ。
私は自分の顔を思い切り叩いて、冷静になる。
決めたじゃないか……二人の恋を応援するって。
だから、私は最後まで、二人の恋を応援するんだ。
「良かったね! 美雪、黒田さんのこと、大好きだったもんね!」
「シロ……」
私の言葉に、美雪が悲しそうな顔で呟いた。
……なんで、美雪がそんな顔するんだよ……。
そんな顔されたら……決意が、揺らぐじゃないか……。
「えっと……もうそろそろ帰りませんか? 日が暮れてきましたし」
その言葉に、私は空を見上げた。
確かに、すでに空が茜色に染まっている。
帰らないと……。
それは同じことを他の人も思ったのか、そのまま帰ることになった。
普段なら、私がハイテンションで盛り上げるところ。
しかし、先ほどからずっと胸がズキズキと痛くて、何も喋る気が起きなかった。
……美雪と黒田さんが、付き合う……。
これで、良かったハズなのに……。
私が望んだ結果のハズなのに……。
どうしてこんなに、胸が痛いのだろう……。
どうしてこんなに……悲しいのだろう……。
「……仔犬お姉ちゃんと先帰っててよ!」
美香ちゃんの声に、私はハッと我に返る。
それと同時に、美香ちゃんがどこかに走り去って行った。
取り残された私と美雪は、顔を見合わせた。




