第34話 笑顔
それから、私達はチュロスを持って美雪達の元に向かった。
すると、そこでは彼女等が男共に声を掛けられているのが見えた。
……は? あの美雪を口説こうとしている?
なんて身の程知らず……。
私は目の前が真っ赤になるのを感じながら、美雪達の元に向かう。
……いや、今のままだと美雪に私の本性がバレる。
慌てて笑顔を取り繕い、私は美雪の元に駆ける。
「美雪~! さっきそこでね、美味しそうなものが売ってる屋台を……」
ひとまずチュロスを先に渡そうとしつつ美雪の元に駆け寄り、そして……男に視線を向けた。
その瞬間、私の敏感な嗅覚に男が付けていた香水らしき匂いが突き刺さり、私は顔をしかめた。
かなり不快だったため、その気持ちを少しでも逃がすかのように、チュロスを折ってしまった。
まぁ良い。買ったのは美香ちゃんだ。
「へぇ、可愛い子だね。君もこの子達の知り合……」
「邪魔」
私はそう答え、男の靴を踏む。
すると男はその場で足を押さえ、呻き声をあげながら痛い痛いと喚く。
これなら、まださっき私達をナンパしてきた男の方がマシだったかな……。
そう内心呆れ、私はため息をつく。
「ふざけんなこのクソアマ! この靴がいくらしたと思ってるんだ!」
しかし、ここで突っかかってくるか普通。
怒りを露わにしてそう叫ぶ男に、私は呆れすらも通り越して最早尊敬してしまう。
「うるさい。邪魔だからどこか行ってよ」
私がそう言ってみせると、男はますますその表情を歪める。
その時、突然頭を押さえられ、私は強制的にお辞儀をさせられる。
「この度は、私のイトコがご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
隣から聴こえた声に、私は目を見開いた。
まさか、美雪!?
でも、なんで……。
「みゆッ……」
「シロッ!」
咄嗟に美雪の名前を呼んだ時、美雪は私を嗜めるように短くそう言った。
それに、私はつい押し黙る。
「なんか気分悪くなったし、もう行こうぜ」
もう一人の男がそう言うと、私が足を踏んだ方の男は同意し、二人で歩いて行く。
男達の足音が遠ざかるのを確認すると、ようやく美雪は私の頭から手を離した。
髪がボサボサだ。直したいが、今手が塞がっているため出来ない。
「……なんでアイツ等に頭下げないとダメなの」
私がそう言いつつ顔を顰めると、美雪は「どうしても」と答える。
それにさらにムッとしていると、黒田さんと美香ちゃんがやって来る。
「白田さん。この件に関しては美雪さんの判断が正しいです」
「なんでッ……」
「相手は男性、こちらは女性です。人数の差はあれど、力では太刀打ちできません。あのまま美雪さんが仲裁しなければ、こちらが酷い目に遭ったのは確実ですね」
「私も花織お姉ちゃんの言葉に賛成。あの男の人達がどういう人なのかは知らないけど、下手したら、女の子にも普通に手を上げる屑だったかもよ?」
黒田さんだけでなく美香ちゃんにまで……。
しかし、二人とも言っていることは正論なので、言い返せない。
仕方なく俯いていると、美雪は困ったように笑って、私の頭を優しく撫でた。
「……!」
「でも、私はシロが来てくれて嬉しかったよ?」
「……ホント?」
「うん。正直言葉じゃ解決するか分からなかったし。……来てくれてありがとう」
その言葉に、私は自分の顔が緩むのが分かった。
確かに無茶し過ぎたかもしれないけど、美雪に認めてもらえただけで、凄く嬉しかった。
美雪がいれば、それで良い。
美雪が幸せなら、それで良い。
美雪の為なら、私は、何でもできる。
美雪の笑顔を見れれば、それで満足だ。




