第32話 気遣い
まさか、美雪があそこまで乗り物に弱いなんて知らなかった。
ジェットコースターが苦手なのは察していたが、まさか吐くほどとは……。
現在美雪はダウンしていて、黒田さんが付き添いをしている。
しかし、流石は美雪と言うべきか、美香ちゃんを気遣って私と二人で遊んでくるように言い渡した。
うん。私にとってはいらぬ気遣いだ。
「み、美雪まさかあんなことになるなんて……わ、私のせいかな……」
私は、美雪が心配でそう聞いてみた。
すると美香ちゃんは不思議そうな顔で私を見てから、優しく笑った。
「そんな、仔犬お姉ちゃんのせいじゃないって。私だって、お姉ちゃんが乗り物弱いの、もう少し気を遣っておけばよかったなって思うし」
「で、でもぉ……」
「ははっ、気にしたら負けだよ?」
年下なのに何様だ、と言いたくなったが、なんとか堪える。
一応彼女にとっては家族だから、こんなことで怒るのはおかしい。
私は深呼吸で怒りを押さえ、前を見た。
「あれ、君達可愛いね?」
その時、そんな風に声を掛けられた。
私達は立ち止まり、声がした方を見る。
そこには、ヘラヘラと笑いながらこちらに近づいて来る男達がいた。
年齢は……クラスの男子と同じくらい。
「え……?」
「ん? 二人ともJC?」
「いや、えっと……」
「へぇ~。俺等高校生なんだけど、良かったら一緒にどう?」
「一緒に、って?」
男の言葉に、私は美香ちゃんを見る。
こういう状況は初めてなのか、困惑した様子で言葉を濁している。
ふむ……まぁ、中学生には荷が重いか。
私はため息をつき、彼女を助けることにした。
本当に癪だが、彼女に何かあったら美雪が悲しむかもしれないから。
「あ、あの……!」
「残念ですけどぉ……」
私はそんな風に言いながら、美香ちゃんの腕を取る。
ゆっくりと私の腕を彼女の腕に絡め、体を密着させる。
出来るだけ艶めかしい動きで、誘惑するように。
「わ……!?」
「私達、“こういう関係”なので……お引き取り願えますか?」
私がそう言った瞬間、美香ちゃんはギョッとする。
しかし、彼女が何か言うより前に、男の方が後ずさる。
「そういう……って、マジか」
「し、失礼しました!」
そう言って走り去る男子達。
ふぅ、一件落着か。
ていうか、今思うとかなり軽率な行動をしてしまったかもしれない。
美香ちゃんは美雪の妹だし、黒田さんと違ってバレる可能性がかなり高い。
ここは、なんとか誤魔化しておこう。
「ごめんね! こうするしか方法見つからなくて!」
「え、あ……うん」
まずは作戦一。あくまであの男子達を逃がすための演技だったということにする。
しかし、美香ちゃんは納得していない様子で、曖昧な感じの表情をしている。
全く……しょうがないな。
「こ、仔犬お姉ちゃ……」
「ねぇ……美香ちゃん?」
私が名前を呼ぶと、彼女は驚いたような表情で私を見た。
それに私は微笑み、人差し指を口に当てる。
いつもの無邪気なシロちゃんモードを外して、素の……白田仔犬に、“戻る”。
「私……結構演技、得意なんだ」
このこと、美雪達には内緒ね……と言いつつ、笑って見せる。
私の言葉に、美香ちゃんは無言で何度も頷いた。
うん……うん。そうだよね。
美香ちゃんは……私が好きだもんね。
だったら、好きな人のために、協力して……ね?




