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犬の恩返し  作者: あいまり
白田仔犬編
117/132

第31話 文句

 それからはトントン拍子で事は進んだ。

 美雪との遊園地を黒田さんは二つ返事で承諾した。

 しかし、彼女は美雪と二人きりで遊園地に行くことが不安だったので、他に人が欲しいと言い始めたのだ。

 そこで真っ先に私に声を掛けた美雪。

 この破壊力分かる? 語彙力死ぬよ?

 ただ、ほんの一個だけ文句があるなら、それは……。


「これが本物の遊園地ですか……」

「え、花織お姉ちゃん遊園地来たこと無いの?」

「はい。だから、分からないことばかりで……」

「へぇ~、なんか意外。何でも知ってそうなのに」

「そうですか?」

「そうだよ~」


 ……なんで美香ちゃんも来てるんだよ……。

 いや、人数合わせってのは分かる。

 美雪と黒田さんがイチャイチャしたら私が余るし、偶数ならちょうどいいから。

 でも……でもさぁ……。


「え……美香、クロとは初対面だよね?」


 しかもそこで美雪が会話に入ったから、なんかもう美香ちゃん死ねば良いのに。

 おまけに、しばらく何か雑談をしていたと思えば、美香ちゃんが美雪の耳元に口を寄せて何かを囁く。

 今こそ目覚めろ……私の聴覚……あの会話を聴かせろ!

 ま、冗談はさて置き、流石にあの二人の距離は気に入らない。

 というわけで私は二人の邪魔をするべく、私は「美雪!」と無邪気に彼女の名前を呼びながら彼女の手を握った。

 相変わらず冷たい手だ。でも、私はそれを強く握って適当にジェットコースターを指さした。


「美雪っ! まずはあれに乗ろ!?」


 私がそう言った瞬間、美雪の頬が引きつる。

 あれ、もしかしてジェットコースター苦手だった……?

 ……いや、苦手でも良いや。

 美香ちゃんと話していたのがなんだか少しムカつくので、意地悪したくなった。

 私は「美雪~」と呼びながら彼女の体を揺すった。


「あー……ハイハイ分かったから。一回落ち着いて」

「むー……」


 私が不満げに声を漏らして見せると、美雪は苦笑する。

 とはいえ、流石に少しワガママを言い過ぎたか?

 そうなると、正直少し罪悪感が湧いた。

 流石の美雪でも怒ったかな……。


「シロがジェットコースターに乗りたいみたいだから、最初はジェットコースターで良い?」


 しかし、美雪は寛容だった。

 美雪に嫌われていなかった事実に、私はホッとする。

 ていうか美雪って割とお人好しだよね。

 今日だって好きな人とデートするチャンスだったのに、その人の為に私や美香ちゃんを誘ったりしてさ。


「えぇ……私は構いませんが?」

「私も……仔犬お姉ちゃんが乗りたいなら」


 そして美雪の提案を承諾する二人。

 いや、二人が美雪の提案を断ったりしたら怒るよ?

 場合によっては命を取る。


「やった~」


 しかし、私はあくまで笑いつつ、無邪気に飛び跳ねて見せた。

 すると美雪は困ったように笑い、そんな美雪を黒田さんが熱の籠った目で見る。

 二人はすでに両想い。もう付き合うのは時間の問題か。

 私は胸が微かに痛むのを感じながら、美香ちゃんに視線を向けた。


 ……へぇ、恋する乙女の表情って、こんな感じなんだ。

 自分に向けられている視線なのに、不思議と、他人事のように感じた。

 正直、なんで私を好きになったのかは分からない。

 岡井家の記憶は神が弄っているハズなので、そういう感情とかも色々都合よくしてくれていると思ったのに。


 私としては、どこかで何度か黒田さんと美雪を二人きりにする機会を作るつもりだ。

 その際、必然的に私と美香ちゃんも二人きりになるハズ。

 ……美香ちゃんには悪いけど、彼女には私のことは諦めてもらおう。


 無邪気に笑いながら、私はそんなことを考えていた。

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