第30話 ビーフジャーキー
「違う……思っていたのと違う……」
「ふーん」
私が不満そうに漏らした言葉に、美雪は興味無さそうに返す。
こっちは美雪のために真面目に悩んでいるというのに……。
「ふーん……って、興味無いの!?」
「別に……あ、そこのコンビニで何かスイーツでも買う? 気晴らしに」
「うんっ! ……ってそうじゃなくて!」
美雪から遊びに誘うなんてこと滅多にないので、反射的に承諾してしまう。
すぐに慌てて文句を続けるが、そんな私を無視して、美雪は近くにあったコンビニに入っていく。
私も彼女の後を追いかけて中に入ると、真っ先に私の嗅覚がドッグフードの匂いを嗅ぎつける。
おお……ドッグフード……久しぶりに見た……。
やはり五年も慣れ親しんでいた食べ物を見ると、懐かしさがこみあげてくる。
自然と足はそちらのコーナーへ……向かうのだが、美雪に襟を掴まれてスイーツの方に連れていかれた。
なーぜーだー。
「ホラ、シロ。何か食べたいのある?」
「ビーフジャーキー」
「ペットフードコーナーを見ながら言わないの」
「ぶー」
私としては久々に犬の食事もしてみたいものだ。
特にビーフジャーキーはお気に入りだった。
歯ごたえ良し。味良し。まさに完全食。
しかし美雪に促され、渋々スイーツコーナーを見る。
でも、ビーフジャーキーのように心踊る食べ物が無くて、私は眉を潜めた。
人間はこんな甘ったるいものを食べて何が楽しいのだろう……。
そう不思議に思っていると、突然美雪は何かを探して歩き始めた。
「……美雪?」
私は不思議に思いつつも、慌てて美雪の後を追いかける。
しかし、美雪はそんな私を見向きもせず、どこかに向かって真っすぐ歩いて行く。
やがて、少し歩が速くなったと思うと、一つの商品を手に取った。
「美雪~?」
ついもう一度声を掛ける。
すると美雪は、手に取った商品を見せてきた。
それを見た瞬間、私は自分の顔に笑みが灯るのを実感した。
「美味しい~!」
私はそう声を発しつつ、自分の頬に手を当てた。
久しぶりに食べるビーフジャーキーは、それだけ美味しく感じたのだ。
そりゃあ、このビーフジャーキーは人間用だし、味覚も犬と人では違うから、味にはかなり差はある。
しかし、これはこれで美味しくて、私は頬を緩ませた。
「良かったね、シロ」
「うんっ! 美雪もいる?」
「うーん……いらない」
そう言って苦笑を浮かべる美雪に、私は少し落胆した。
こんなに美味しいのになぁ……。
しかし、その分私が食べる分が増えると考えると、途端に嬉しくなって、私はビーフジャーキーを齧った。
「それで? 結局、シロは私とクロに何をしてほしかったの?」
本題に戻すように、そう聞いてくる美雪。
彼女の言葉に、私は咀嚼していたビーフジャーキーを飲み込み、口を開いた。
「えっとね、美雪と黒田さんには、もっとこう……体を動かして遊んで欲しかったの」
「体を動かして?」
「というか、えっと……外とかに出て何か遊んだら、きっと楽しいかなって。そしたら、二人はもっと仲良くなるんじゃないかなって思って」
「へー」
興味無さそうな返事をする美雪。
しかし、彼女にも何か考えがあったのか、顎に手を当ててしばらく考え込む。
「……私がボールを取りに行けば……」
いや美雪何言ってんの。
百年の恋も冷めそうな発言を平然とした美雪は、それを忘れるように首を振り、私を見た。
「じゃあ何をすれば良いの?」
「うん……だから私なりに少し考えてみたんだけど~」
そう言いつつ私はビーフジャーキーを空中に放り、口でキャッチをする。
それから美雪を見て、笑って見せた。
「遊園地に行ってみるのはどうかな、って」




