第28話 微笑
業間休憩の最中に、私は黒田さんに呼び出された。
美雪も付いて来るのかと思ったが、美雪は自分の部屋で寝ていて気付かなかったし、起こすのも申し訳なかったので、放置。
黒田さんに連れられて人通りの無い場所に連れてこられると、彼女は私を見た。
恐らく、ここで話をするつもりなのだろう。
主導権を奪われるのは極力避けたい。
私は先手を打つことにした。
「黒田さん……どーしたの?」
いつもの可愛い可愛いシロちゃんを演じながら、私はそう聞いてみる。
すると黒田さんは私の目を見て、口を開いた。
「……白田さん。貴方は……何を隠しているのですか?」
「え?」
突然の質問に、私は固まる。
何を……隠している……?
まさかと思うが、彼女は……私の本性に気付いている……?
いや、それだけならまだマシだ。
もしも元犬だということも知られていたら……かなりマズイ状況かもしれない。
そう思っていた時、突然私は黒田さんに肩を掴まれ、背中を壁に押し当てられた。
「……!?」
「答えて下さい。貴方は……何者なんですか?」
冷たい声と共に、花のような匂いが鼻孔をくすぐる。
私が、何者なのか。
本当に、彼女はどこまで勘づいているのだ?
そう思いつつも、私は笑みを引きつらせ、「何言ってるのさ~」とはぐらかす。
「何者って、私は私。白田仔犬だよ~」
「そういうことを聞いているのではなくて……私は……!」
「聞きたかったことって、それだけ? じゃあ私もう行くね~」
そう言って手を振りつつ、私はその場を離れようとする。
すると黒田さんは私の腕を掴み、声を張り上げた。
「白田さんは、美雪さんのことが好きなんですよね!?」
……え?
は、え?
まさかの言葉に、私は体を動かすことすらできなかった。
そりゃあ確かに、私は美雪が好きだよ? 大好きだよ?
なんでそれをお前が知ってるんだよ!?
「……あーもううっさいなぁ」
気付いたら、私は演技をするのも忘れてそんな風に言っていた。
いや、というかさ……ホントうるさいよ。
ていうかしつこい。何様だよ? 黒田花織様?
は? ふざけるな。
沸々と湧き上がる怒りぶつけるように私は彼女をつきとばし、続けた。
「一々しつこい……何そのデリカシーの無さ。異常かよ」
「……それが貴方の本性ですか」
しかし、私に突き飛ばされても尚、冷静にそう呟く黒田花織。
彼女の言葉に、私は答えられない。
まさかこれは、彼女が鎌を掛けた?
はッ……まんまと彼女の掌の上で踊らされたわけだ。
私は目を逸らし、舌打ちをした。
その時、彼女が続けた。
「……なぜ、美雪さんの前では猫を被っているのですか?」
「……アンタには関係ないでしょ」
「そんなことは……!」
「私とアンタは他人でしょうが!」
いよいよ怒りが沸点に達し、私はそう叫んだ。
すると彼女は唇を真一文字に結んで押し黙る。
これ以上、彼女と話していたくなかった。
だから、さっさといなくなってほしかった。
なのに……。
「そうですね……では、私は先に教室に戻ります」
「……」
「……美雪さんに、白田さんの本性について話してきますね」
「……は!?」
「私と白田さんは他人ですから、白田さんがどうなろうが関係ないので。では」
そう言って歩き出す。
いや、待て待て待て。
私は慌てて彼女の腕を掴み、その足を止めさせる。
流石に美雪に私のこの本性を知られるのはマズイ!
「……何が目的……?」
私がそう聞いてみると、彼女はとても優しい微笑を浮かべた。
しかし、私にとっては、悪魔の笑顔にしか見えなかった。




