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犬の恩返し  作者: あいまり
白田仔犬編
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第24話 因果応報

「白田さん。ちょっと良い?」

「うん?」


 声を掛けられ顔を上げると、そこには……クラスでも派手な部類のギャル達が、私を見ていた。

 それも、かなり不機嫌そうに。

 あー……流石にちょっと調子に乗り過ぎた?

 そう思いつつも、私はヘラヘラと道化を演じる。


「なぁに? 何か用?」

「何か用、じゃないよ。……何あれ?」

「あれってなぁに~?」


 私が笑いながら聞くと、彼女等はますます不機嫌そうになる。

 とりあえず美雪が来るまでの間の暇つぶしと行こうか。

 そう思っていると、気付いたら囲まれていた。

 あ、これはヤバいパターン。


「だから、さっきの男子への態度。何、男子に媚び売ってんの?」

「そんなんじゃないよ~? ちょっとお話をしていただけ」

「今回だけじゃないよ。いつものジャンケン。あれとか何なの?」

「あれはぁ、私小食だからお腹空かなくて……だからあげてるの。残すのは勿体ないもん」

「だったら親にいらないって言えば良いじゃん」

「わ、私今叔母さんの家にお世話になってるから、そう言うのは申し訳なくて……」

「弁当作らないで、くらい、言えば良くない?」


 割と遠慮なく言ってくる言葉に、私は徐々に不快になる。

 ……別に、コイツ等は……いっか……。

 美雪に私の本性がバレなければ良い。

 そう考えた私は、顔に浮かべていた笑顔を消し、無表情になる。


「……なんで私がアンタ等にそこまで言われないといけないわけ?」


 私がヘラヘラした態度をやめたからか、周りにいた人達の表情が強張る。

 そんな中で、恐らくリーダー格であろう女子が、「へぇ~」と笑いながら引きつった笑みを浮かべた。


「それがアンタの本性ってわけ?」

「さぁ……どうだろう?」

「はッ……なるほどぶりっ子か。あーあ、男子がアンタの本性を知ったらどう思うかなぁ?」

「別に良いよ? 知られても」


 私の言葉に、女子達はますます訝しむような表情をした。

 そりゃそうだよねぇ~。皆からしたら男子に好かれるための演技だと思ってるだろうから。

 私はヘラヘラと笑いながら続ける。


「まずさぁ、私アンタ等みたいにそこまで恋人に飢えるほど寂しい人生送ってないので」


 恐らく、図星だったのだろう。

 完全に女子がキレた。


「アンタさぁ、ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃないの!?」


 金切り声が響き渡る。

 それに私はビクッと肩を震わせる。

 その時、冷静になったからだろうか。


 ……教室の外に、美雪がいる。


 犬だった頃の嗅覚が発動し、美雪の匂いを察知したのだ。

 流石に美雪に本性を知られるのはマズイ。

 私は慌てて笑顔を取り繕い、ヘラヘラした演技をする。


「調子になんて乗ってないよ~?」

「そういう態度がもう調子乗ってんじゃん」

「大体、男子に媚び売ってる時点で……ねぇ?」


 だから男子に媚びなんて売ってないっての!

 外で聴いてる美雪が誤解したらどうするんだよ!

 ……と、そこまで考えて、私は少し落胆する。


 美雪は……きっとこのまま、このやり取りを聞いているつもりなのかもしれない。

 そりゃあ、女子の集団相手に歯向かうって難しいし。

 美雪、そういうこと進んでやるタイプじゃないし。

 ……美雪は、私のことなんて好きじゃないから。


「媚びなんて売ってないもん!」

「じゃあ今日のアレは何なんだよ! 今更言い訳なんて聞きたくない!」


 そう叫び、女子が胸倉を掴んでくる。

 あぁ、もしかしたら……この子は、あの男子が好きだったのかもしれない。

 今更になって、そんなことを考える。

 好きな人が別の子に赤くなったりしたら、そりゃ嫌な気持ちになる。

 色々な口実並べているけど、もしかしたら、本当は単純に恋愛感情からの憤りなのかもしれない。


「カハッ……苦しい……!」

「苦しい……へぇ……じゃあちょうどいいじゃん」


 そう言って顔を近づけてくる女子。

 名前すら知らない女子。

 でも、私と同じ……一人の人が好きなだけの女子。


「だったらアンタウザいし……死んじゃえば?」


 彼女がそう言った時だった。

 ガララッ! と音を立てて、教室の扉が開いたのは。


「へ……?」


 掠れた吐息のような声が出た。

 その扉に視線を向けた瞬間、私は目を見開く。

 そんな……なんで……。

 このタイミングで登場するなんて、ホント……カッコよすぎでしょ……。

 折角多少の諦めが付いていたのに。

 なんとかこの気持ちを割り切れると思っていたのに。


 こんなの……あんまりだ……。


「……みゆき……」


 扉の前に立つ少女の名前を、私は弱々しく呼んだ。

 ……最愛の人の、名前を。

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