第21話 嘘
どうやら私が連れて来た服屋は、高級店だったらしい。
服の値段が高く、美雪の持ち金じゃ買えないという話になり、別の服屋に行った。
そこで美雪に似合う服を選び、買った。
それから店を出ると、そこでは……雨が降っていた。
「雨止まないね~」
「そうだねぇ」
私の言葉に、美雪は気怠そうな口調でそう言った。
あぁ、そっか。美雪って雨嫌いだもんね。
散歩の時も、雨の時はすごくテンションが低かった。
私は美雪さえいればどんな天気でも楽しいので、そういう時は私達の間に明らかな温度差が出来る。
あと、夏は暑くてテンション低いし、冬は寒くてテンションが低いし……あれ、美雪テンション低い時多くない?
まぁ、そんなことを考えながら雨を見ていた時、私はとあることを思い出す。
そういえば、美雪に拾われた時も……雨だった。
『……貴方も……一人ぼっちなの……?』
『……私と……一緒だね……』
当時の美雪の声が、頭の中でリフレインする。
あの時、あの言葉から、私の全てが美雪になった。
そう考えると、雨は、私達にとっては思い出の天気ということになる。
「……雨……か……」
小さく呟くと、美雪が私を見て不思議そうな顔をした。
だから、私は美雪を見て笑った。
「ホラ、私達が初めて会ったのも、雨が降っていた時期でしょ?」
「……あぁ」
私の言葉に、美雪は、まるで今思い出したかのような反応をした。
……え……?
まさかと思うけど、美雪……今まで忘れていたの……?
ううん、そんなわけない! きっと気のせいだ。勘違いだ。
雨が降っていたことくらいは、ずっと覚えていても良いハズ!
「そういえば、あそこって田んぼの近くの道だったよね……あっ、もしかして、白田 仔犬って……」
しかし、続いた美雪の言葉に、私は表情が緩むのを感じた。
うん……うん。そうだよね。
忘れていたわけ……無いよね。
私の気のせい、だよね。
「えへへ……当たり」
私の言葉に、美雪は特に表情を変えない。
……そこまで覚えているなら、きっと、あの言葉も覚えてくれているハズ。
美雪が、私を自分と同族だと認めてくれた言葉を。
一緒だね、って。私と同じ、独りだね、と。
私は美雪の袖を引き、早速聞いてみた。
「ん?」
「ねぇ、美雪。……あの時、美雪が私に何て言ったか、覚えてる?」
私がそう聞いた瞬間、美雪は……笑顔で固まった。
キョトン、という擬音が、一番似合いそうな表情。
それに、頬が引きつる。
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
「あー、ごめん。覚えてない」
彼女のその言葉を聞いた瞬間、世界から……色が消えた。
ずっと、私を支えてくれたあの言葉。
それは、彼女にとっては……その程度の戯言だったのだ。
はは……私は本当に、馬鹿だ。
何が同族だ。何が同じだ。何が……何が……。
泣きたかった。喚きたかった。
でも、そんなことは出来ない。
私は必死に笑顔を取り繕い、口を開く。
「シロ……?」
「ごめん。なんでもないよ! それより、この雨どうしよっか」
「うーん……あっちにコンビニがあるでしょう? だから、あそこまで走って、傘でも買うのはどうかなって」
「なるほど……それじゃあ早く行こうよ!」
「わ、ちょっと……!」
流石美雪だ。私には思いつかないようなアイデアを持っている。
だったらすぐに行かないと。早くしないと……涙が、溢れてしまうから。
私は美雪の腕を引き、雨の中に駆け出した。
顔に当たる小粒の雨粒が、私の頬を伝う大粒の雨をかき消していった。




