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犬の恩返し  作者: あいまり
白田仔犬編
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第20話 不愉快

 あれから、美雪と黒田さんの距離感は格段に変わった。

 学校ですれ違ったりすると挨拶をするようになったし、昼食は一緒に食べるようになった。

 私も誘われたが、一緒に昼食を食べたら邪魔してしまうような気がしたので、お断りした。

 しかし、二人が楽しく昼食を食べているところを見ると食欲が無くなったので、そういう時は弁当を男子に譲った。

 すると、気付けば私のジャンケン大会は日常風景となり、いつしか私は昼食を食べないのが当たり前になっていた。

 まぁ、犬だった頃は一日二食しか食べなかったので、別に苦ではない。


「そろそろ恩返しステップ2をするべきだと思うのです」


 そんな中での、とある休日。

 私は勉強を終えたばかりの美雪にそう切り出してみた。

 私の言葉に、美雪はしばらくキョトンとしてから「はい?」と聞き返してきた。


「急にどうしたの」

「だから、恩返し。もうそろそろ、黒田さんとの関係を深めるべきじゃない?」


 私の言葉に、美雪は顎に手を当てる。

 そう。もうそろそろ次のステップに進んでも良いハズだ。

 このままグダグダと友人関係を続けていても仕方がない。


「それは構わないけど……具体的には何をするの?」

「フフッ。第二弾は~……」



 というわけで、早速私は美雪を連れて服屋に来た。

 服屋なんて来たことないから分からないけど、まぁ、美雪がいればなんとかなりそう。

 一応服屋のシステムなどについても知識としては理解している。

 そういうことなので、私は早速美雪の腕を引いて入店する。


「ちょ、シロ落ち着いて」

「良いから良いから」


 私はそう言いつつ笑いながら、美雪の腕を引く。


 今回の恩返しの内容は、「身だしなみをきちんとする」だ。

 美雪は折角良い顔をしているのに、私服にスカートが無い!

 もし黒田さんとデートをするってなった時にそれでは困るだろうと思ったので、前もって私服を買っておくのだ。


 ……というのはあくまで言い訳で、本当は美雪に櫛で梳いてもらったことからヒントを得たんだよね。

 犬だった頃、よく毛皮を整えてもらっていた。

 それが凄く気持ちよくて心地よかったことから、今回の恩返しのヒントを得た。

 私にとっての毛皮は、美雪にとっての服だと思う。

 だから、こうして服屋に来て彼女に似合う服を探しに来たのだ。


「この服すごく似合ってる~!」


 私がそう言いつつ服を合わせている間、美雪は退屈そうに他の場所を見ている。

 でも美雪~ズボンのコーナーとかメンズコーナー見るのは止めよ?

 そりゃメンズだったらサイズ小さいの買えば済むから出費は少なくて済むけどさぁ。

 そんな風に考えていた時、美雪のスマホが震えた。

 誰からだろう、とぼんやりと考えている間に、美雪が電話に出た。


「もしもし?」

『ぁ……しも……ゃ……』


 美雪の電話から微かに聴こえた声に、私は眉を潜めた。

 この声は……美香ちゃん……?


「どうしたの。急に電話なんて」


 美雪がそう言うと、美香ちゃんは何も答えなかった。

 私から聴こえないだけなのか……美雪に言えない事情なのか……。

 どちらにしろ……気に食わない。

 しかし、美雪に人差し指で「シッ」てされてしまったので、これ以上言及できない。

 私はムッとして、その様子を眺めていた。


『……ぁ……ゃんと……る……?』

「そうだけど?」

『え……ん……』

「えっと……近所の服屋さん。店名覚えてないや……なんか建物が青いんだけど」

『……ぁ……あ……た……な……? ……つに……ぃ……ゃん』

「私にだって色々あるの。もう切るよ」

『ぁ……』


 ほとんど会話の内容は分からなかったけど、でも……美香ちゃんが美雪と会話をした。

 美雪のことを好きである可能性がある美香ちゃんだ。

 それだけで、私は不愉快な気持ちになる。


「……あれ……」


 その時、無意識に美雪の服を選んでいたことに気付く。

 美雪のことを考えすぎて無意識に彼女のために行動していたか……うん。私はかなり重症なようだ。

 自分の行為に苦笑しつつ、私は「美雪~!」と美雪の名前を呼びながら、彼女に駆け寄った。

 しかし、その時足を滑らせて、前のめりに倒れ込んだ。


「危ない!」


 美雪の凛とした声が響くのと、私の体が美雪の手によって支えられたのは、ほとんど同時だった。

 フワッと、石鹸のような香りが鼻孔をくすぐる。

 顔を上げると、心配そうに私の顔を覗き込む美雪の姿があった。

 ……綺麗だなぁ……。

 しばらくぼんやりと彼女を観察していたが、やがて我に返り、ハッとする。


「えっと、大丈夫? 怪我とか」

「大丈夫! ありがとう、美雪!」


 なんとか笑顔を取り繕いながらそう言ってみると、美雪は安堵した様子で息をついた。

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