第19話 堪能
放課後になった。
私は美雪に連れられ、デパートに来た。
屋上に上がり外に出ると、そこには、遊園地のような場所が広がっていた。
「わぁ……!」
目の前に広がる光景に、私は言葉を失う。
私の知っている遊園地よりは、遊具も少なく、こじんまりした印象だ。
それでも、遊園地であることに変わりはない。
「美雪~! このお馬さん乗ってみたい!」
とりあえず目につくメリーゴーランドを指さしながらそう言ってみると、美雪は笑ってお金を出してくれた。
それから二人で様々な遊具に乗り、遊園地を堪能した。
古くて小さな遊園地だけど、美雪と二人だと、凄く楽しかった。
そして最後に、二人で観覧車に乗った。
「わぁ……たかーい!」
「あまりはしゃがないようにね。この観覧車古いから、何があるか分からない」
窓の外から見える景色に歓声をあげていると、美雪が笑いながらそう窘めて来た。
それに、私は「はーい」と子供っぽく返事をして、景色を眺める。
しかし、突然ガクンッとゴンドラが揺れ、停止する。
突然のことに私は呆然とし、美雪を見つめる。
「み、美雪……止まったよ?」
「……知ってる」
私の言葉に美雪は神妙な顔でそう呟いた。
その時、突然どこかから『大丈夫ですか?』という声がした。
これまた突然のことに私は驚いて、辺りを見渡す。
すると美雪が壁に付いた機械に「大丈夫です」と話しているのを見て、どこから声がしたのか納得する。
馬鹿の演技は常にしているが、素で馬鹿を晒したのは初めてだったので、私は恥ずかしさから縮こまる。
その間に、美雪とスピーカーからの声は会話を続ける。
『状況はどんな感じですか?』
「女子高生二人です。怪我人はいません。あの……何があったんですか?」
『恐らく機材の不具合です。こちらで出来ることをしてみますが、最悪救助隊などを呼んで……』
「そうですか……」
そう言って少し落胆した様子の美雪。
……救助隊……?
よく分からないけど、突然、凄く不安になる。
もしかしたら、このまま帰れないのではないか。
心の底からそんなことを考えてしまい、私は、押し寄せる不安感に唇を噛みしめた。
「美雪……」
つい彼女を呼んだ声は、すごく弱々しかった。
演技でも無くこんな声を出すようになるとは……と、私は内心苦笑した。
そんな私を見て、美雪は優しく笑った。
「シロ……大丈夫だよ。しばらくはこのままだけど、いずれ直るだろうし、最悪救助隊とかが来るらしいから、家には帰れるからさ」
「本当……?」
「ホントホント。……あっ、家に帰るのが遅れること電話した方が良いかな」
そう言ってスマホを取り出し、家に電話をする美雪。
しかし、美雪の言うことが本当だとしても、やはり怖いものは怖い。
……美雪と一緒なのに、不思議な感じ。
そこまで考えて、私はハッとする。
もっと美雪に近付けば、この不安は、取り除かれるのかもしれない。
「シロ……?」
「美雪……隣行っても良い?」
電話を切ったばかりの美雪に、そうお願いしてみる。
すると美雪は笑って、「良いよ」と答えてくれた。
彼女の言葉に私は立ちあがり、彼女の隣に座る。
あまり席は広くないので、二人で並ぶと、すごく密着する。
彼女の体温が直接伝わって来て、すごく安心した。
「美雪……本当におうちに帰れる?」
「大丈夫だって。心配しなくても、なんとかなるよ」
そう言って私の肩を抱き、ポンポンと優しく叩く美雪。
それに私は安堵し、彼女に身を委ねる。
「なんかね、美雪にくっ付いてると、安心する」
「今朝も似たようなこと言ってなかった?」
そう言って笑う美雪に、私も釣られて笑いながら「そうだっけ」と返す。
しかし、本当に……安心、する……。
その安心のせいだろうか。徐々に私の瞼は重くなり、意識も混濁する。
体から力が抜け、美雪に体重を預けるように寄りかかる。
「そうだよ」
「そっかぁ」
私は適当に呟くように言いながら、美雪に凭れる。
瞼も完全に閉じ、そのまま意識は、闇に落ちていく……。




