第18話 狙い
しばらく廊下を歩いてから教室に戻ると、すでに黒田さんはいなかった。
もう屋上に向かったのだろう、と安心し、顔を上げてみる。
すると、そこには不思議そうな顔でこちらを見ている男子達がいた。
「……? どーしたの?」
「え、いやぁ……なんか、黒田さんや岡井さんと三人でご飯食べる、みたいな話をしていた気がしたんだけど……」
男子の言葉に、そういえばそんなこと言ったっけ、と思い出す。
あくまで美雪と黒田さんを二人きりにするための口実なんだけど……さて、どう誤魔化したものか……。
「んっとねー、そのつもりだったんだけどねー、屋上の場所が分かんなくて帰って来た!」
適当にそんなことを言って見ると、男子が顔を赤らめた。
私のどす黒い本性を隠すための演技は、どうやら男子受けが良いようだ。
確かこういうのをあざといって言うんだっけ?
よく分からないけど、まぁ、良いか。
「そ、そうなんだ……案内しようか?」
「んーん、なんか校舎探検してたら楽しかったから良いし~、お腹も空いてないや~。あ、そうだ」
私は胸の前で手を打ち、鞄から弁当を出して男子に見せるように掲げて見せる。
それから“THE・無邪気な笑顔”的な表情を浮かべながら、口を開く。
「これ、誰か食べる?」
―――閑話休題。
いや、あの後は本当に色々大変だった。
クラスの男子生徒全員が立候補してくるとは思わなかった。
最終的に『第一回仔犬ちゃん主催ジャンケン大会』を開催することにより事なきを得たが。
ちなみに現在、弁当を勝ち取った男子生徒は他の男子から弁当を強奪されそうになっている。
健闘を祈る!
「……白田さんってさ、それ、狙ってやってんの?」
その時、そんな声がした。
見ると、そこにはお菓子を齧りながらこちらを見ている女子生徒がいた。
目が合うと、彼女は微かに目を細める。
「狙うって何を?」
「男子を落とそうとかそういうこと考えてるんじゃないかなって思ったの。違うの?」
「え~何それ~」
間違ってないよ~。美雪に近づく害虫を減らそうとしてるだけだよ~。
しかし、最近の女子高生は中々鋭いな。
黒田さんにも美雪への想いを知られてしまったし、これは気を付けなければ。
「そう……なら良いんだけどさ」
「私難しいことよく分かんなーい」
ヘラヘラと笑いながら言うと、女子生徒は呆れたようにため息をついて友人達との雑談に戻った。
それにしても、そうか……私には美雪以外は馬糞以下のゴミにしか見えていないけれど、普通の人間は異性を好きになるんだよな……。
今のところ、恩返しの内容は美雪にしてもらって嬉しかったことを元に考えている。
けど、たまには異性の意見を取り入れてみるのもありかもしれないな。
そんなことを考えていると、扉が開く。
見ると、そこには黒田さんと共に教室に入って来る美雪の姿があった。
「美雪っ」
私が名前を呼ぶと、美雪は私に視線を向けて来た。
すると美雪は笑みを浮かべ、親指を上げて来た。
良かった……仲良くなれたんだ……。
胸に痛みを感じながら、私は笑い返した。




