第17話 目標
教室に入ると、私はすぐに黒田さんを探した。
彼女は、すぐに見つかった。
だって浮いてるから。
皆が賑やかに雑談をしながら食事をする中、一人で席につき、弁当を開こうとしていた。
彼女の席は窓際なので、陽の光がよく入る。
黒く長い髪が太陽の光を反射して、キラキラと輝く。
私は黒田さんの席に向かいながら、視線を彷徨わせる。
女子は普通に昼食を開始しているが、男子は黒田さんを見て頬を赤らめている。
……高峰の花、か……。
昨日、私に一生懸命黒田さんが自分とは別世界に住んでる人間なんだと話していた美雪の顔が浮かぶ。
そして、黒田さんに見惚れている男子と美雪が重なって、少しイラッとした。
「黒田さんっ!」
美雪を取られた怒りを隠しながら、私は黒田さんに話しかける。
すると彼女は弁当を止める手を止め、顔を上げた。
そして、首を傾げた。
「白田さん?」
「黒田さん。一緒にお昼ご飯食べない?」
「えっ……?」
私の誘いに、黒田さんは怪訝そうな顔をする。
いや、なぜ昼食に誘われただけでそんな表情をされるのだろう。
今にも「何言ってんだお前」って言われそうな顔の黒田さんに、私は笑顔を向けておく。
「二人で……ですか?」
恐らく私の言葉を理解するための間だろうか。
しばらく時間を置いて、彼女はそう言った。
彼女の言葉に私は首を横に振った。
「まさか~。美雪も入れて三人で、だよ! 美雪、黒田さんと仲良くしてみたいって! 私も黒田さんと仲良くしてみたいなって思って! ……ダメ、かな?」
私の言葉に、黒田さんはますます怪訝そうな表情をする。
え、ちょっと待って。そんな顔されても困るんですけど。
徐々に自分の笑みが引きつっていくのを感じていると、黒田さんは口を開く。
「私は別に構いませんが……白田さんは良いのですか?」
「え、何が?」
「だって……白田さんは、岡井さんのことが好きなんですよね?」
それを聞いた瞬間、完全に私は笑顔を作るのをやめた。
は? コイツ……なんでそれを知っているんだ?
私はすぐに黒田さんに顔を近づけ、問い詰める。
「ねぇ、それ、なんで分かった?」
私の言葉に、黒田さんは困惑した表情で目を逸らす。
自分でも驚くくらい冷たい声が出た。
これが私の本性? ……分からない。
でも、それよりも私は、彼女に聞かなければならない。
なぜ、私の気持ちを知っているのかを。
未だに答えない彼女の肩を掴み、私は「なんで!?」と強い声で問いただす。
「なんでって……態度で分かりますよ……ずっと岡井さんのこと見ていますし……」
その言葉に、私は彼女の肩から手を離した。
なるほど、そういうことか……。
言われてみれば、確かに、かなり態度に出ていたような気がする。
取り乱した自分がなんだか恥ずかしくて、私は曖昧に笑っておく。
「ごめん。まさか気付かれてるなんて思わなくて、動揺しちゃった」
「はぁ……」
「私も黒田さんと仲良くなりたいし、大歓迎だよ!」
ダメ、かな? と。
いつものように笑顔を作り、可愛らしく首を傾げて見せたりする。
すると黒田さんはキョトンとした表情から、少し優しく笑って、頷いた。
「では、お言葉に甘えて」
「やった! じゃあ私、美雪探しに行ってくるから、先屋上行ってて!」
「え、屋上?」
「うんっ!」
私はそれだけ言って、教室から飛び出した。
これで、あとは二人次第。
少しでも距離が縮めば良い。そこから少しずつ仲良くなり、最終的には付き合うのが目標。
そうすればもう、美雪を独りにしなくて済む。
廊下の途中で立ち止まった私は、窓の外から見える空を見上げ、呟く。
「ねぇ……これで良いんだよね? 神様」
私の呟きに、応えてくれる人はいなかった。




