第1話 吐き気
昼休憩の喧騒の中、私の耳は特定の会話だけを追いかけていた。
「マジあの先生ウザすぎ。ちょっとスカート丈短いだけでグチグチと」
「だよね~。そういえばさ、さっきアイツ私のことジロジロ見てきてさぁ。絶対エロい目で見てるよ」
「うわ、キモ……!」
……吐き気がするような会話だ。
スカートの丈は膝下って校則なのに、その校則を破っているのだから怒られるのは仕方ないだろ。
ジロジロ見てるのはお前が髪に隠れる場所にピアスしていたのがたまたま見えて気になったからだろ。
何がエロい目で見ていた、だ。この自意識過剰どもが。
「ね、アンタはどう思うの?」
……私に聞くなよ……。
このまま無難に昼休憩を過ごそうとしていたのに。
睨みそうになるのをなんとか堪え、私は咀嚼していた菓子パンを飲み込み、笑顔を浮かべて見せた。
「そうだね。あの先生、ホントウザい」
「ね~!」
嬉しそうにするギャル共に辟易しつつ、私は菓子パンを齧る。
……気持ち悪い空間だ。
コイツ等は、自分達の意見が全ての人間の意見だと思い込んでいる。
あくまで、自分の周りが同調しているだけだと言うのに。
本当なら、一人になってしまいたい。
でも、そうすると色々面倒だ。
なんだかんだ、私も、誰かと一緒にいないと安心できない。
だから今日もこうして、皆の意見に合わせる。
相変わらず、臆病で意気地なしの自分に呆れつつ、私は菓子パンを飲み込んだ。
その時、教室の扉が開く。
「ぁ……」
風になびく、綺麗な黒い長髪。
人形のように整った顔に、手には数冊の本。
同じクラスメイトの、黒田 花織だった。
彼女は美人で、男子からモテモテだ。
おかげで、彼女のせいで失恋したと言っても過言ではない女生徒が続出し、女生徒からは逆恨みされている。
美人は大変だなぁ……彼女には全く罪なんて無いのに、恨まれちゃって。
ただ、恐らくそれが無くとも、彼女は高嶺の花のような存在なので、きっと話しかけられる生徒はいなかっただろうけど。
「……アイツ、いっつも一人だよね。本しか友達いないのかな」
その時、そんな声が聴こえ、私は顔を上げた。
言ったのはスカート丈のことで先生に注意され愚痴を言っていた方の女生徒で、馬鹿にするような目で黒田さんを見ている。
「ホントだよね。寂しい人」
ピアス少女もそれに同調してクスクスと笑う。
そうかな……私には、普通に好きなことをしているだけに見えるけど。
実を言うと、私もこうしてくだらない話をするより、本を読んでいる方が楽しい。
ただ、私が好むのはホラー小説なので、同じ趣味を持つ人なんていないだろうけど。
「……そうだね」
それでも、私はいつものように上辺だけの賛同をしながら、昼食を口にした。
……早く、放課後にならないかな。