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第9話 ごみための打ち上げ

第9話 ごみための打ち上げ


れいなんこさんは自分のするべき仕事を全て片付けると、

ようやくスカートを穿いて、締め切りを待たずに次の仕事へ行ってしまった。


「来月もここん仕事すっから、まいけるんゆっくい考えちょき。

返事は待つ、じゃどんおいが本気ちゅう事は忘れんでね」


…もちろん勧誘はしっかり忘れずに。


「まいけるん、ここ62番頼むで」

「り」


二人になっても仕事は続く。

俺とジェラールさんはひいひい言いながら作業を進める。

トイレに立った時、鏡の中にはどろどろに汚れたおっさんがいた。

初めてジェラールさんに会った時と同じだ。

なるほど…あれはこういう事か。


「ジェラールさんさ、この作品ならおかしくはないけど…、

少女漫画に男のアシスタントて珍しくね? 普通はアシスタントも女じゃね?」

「普通はそうやろね、でもプロのアシさんには男のもんもいよる。

そういう人らは大体、少年でも青年でもやっていかれへんような人や。

実力が足らへん、何ぞやらかした…訳ありや」


ジェラールさんはくわえたばこで、手を動かし続けながら言った。

ハイライト、れいなんこさんのわかばにも引けを取らぬきついたばこだ。

そして俺もたばこはハイライトだ。

俺も短くなったハイライトを消して、新しい1本に火を点けた。


「ふうん、俺やれいなんこさんは特殊の中の特殊枠になるな」

「身内枠やね、身内はそう珍しあらへんで。

…あ、そうや。まいけるん、打ち上げどっか行きたいとこある?

こないだは急やったし、前に使うた店で適当なとこにしたけど」


彼女はふと手を止めて、汚れた顔を上げた。


「打ち上げなあ…それよかゆっくり寝たい、切実」

「まいけるんの打ち上げは睡眠かいな、あかんやろ。

締め切り終わったら、ここで寝てそれからでええやん」

「今ならまる3日間寝れる自信ある」

「はん、うちなんか1週間寝れるわ、勝った〜」

「何い〜」


俺たちはにらみ合い、それから立ち上がって無益な喧嘩へと発展した。

どっちか長く眠れるか、あまりにも下らなさ過ぎる。



「…で、なんでこうなる?」


締め切りの後、海底に沈む泥のような眠りから覚めると、

食事をこしらえる時の、優しいいい匂いがした。

ジェラールさんの仕事場の、ごみためのはずなのに。

台所に行って見ると、なんと彼女が自ら料理をしているではないか。


「え、お腹空いたやん。とりあえずメシにせんと。

まいけるんももちろん食べるやろ?」

「お、おう…てか、炊き込みごはんか、いいな。

こっちの鍋は? わ、ツナ大根? 旨そうだな…!」


俺は炊飯器や鍋などあちこち中を覗いては、その度に驚き、喜んだ。


「冷凍のんやけど干物もあんで〜」

「まじ?」

「失礼な。うちはこれでもおばちゃんやで、料理くらいするわ」


散らかり放題の仕事場の机に、皿小鉢が狭々と並べられ、

二人揃っていただきますを言って食べ始める。


「旨い…マジ意外なんだけど。

この油揚げとほうれん草のみそ汁とか絶妙過ぎだろ」


おばちゃんの手料理だから、そして俺もおっさんだから、

旨いのは、旨く感じるのは、当たり前かも知れない。

でも問題はそのおばちゃんが、目の前にいるだらしなさの極みなジェラールさんて事だ。


「で、打ち上げどこがええか考えたか?

高いとこ言うてくれてもええで〜なにしろ経費やからな、経費」


ジェラールさんは、紅しょうがのかき揚げを頬張りながら言った。

くそ、これも旨い…ガチャとは違ってはずれなしかよ。

ほぼNカードしか出ないノーマル10連ガチャから、

高コストSSRが10枚、全部出るようなレベルだぞ。


「いやもう打ち上げこれで十分。めちゃくちゃ旨いし」

「あかん、打ち上げはアシが享受すべき当然の福利厚生や」

「う〜ん…俺、特に行きたい店もないし。あ、ならこういうのはどう?」

「何や?」

「次の食事を俺に作らせて? 俺も一人暮らしだから料理はするよ。

このお礼に今度は俺が得意料理を、それで打ち上げ…ど?」


インクや墨で汚れたまんまのおばちゃんの顔が、ぱあと笑顔で輝いた。


「ほ、ほんなら作るとこ見とってもええ? てか一緒に作らへん?」

「何それ…そんな楽しそうな事を」

「うちのレパートリーはこんなもんやないで、まいけるんごときに負けへん」

「むは、かかって来い…!」

「おばちゃんの名誉にかけて!」


打ち上げには俺が台湾風の鍋や蒸し物など、メニューを考え、

二人で買い物に行き、ぎゃあぎゃあ言いながら食材を選び、

ごみためのキッチンで、またぎゃあぎゃあ言いながら調理をした。

しかしこのごみための仕事場で食べるには…。


「料理置くとこないじゃん、片付けろ」

「え〜適当でええやん、床に置いてもええで〜」


ジェラールさんは疲れて、ごみだらけの床にごろごろと寝転がっていた。

なぜ寝るといつもそのだらしない腹がむき出しになる?

俺はその腹をぎゅうと踏んで、ふと思いついた。


「ジェラールさん、鍵貸して!」

「どこのん?」

「自宅! ろくに使いもしてないからきれいなままだ、あそこしかない」


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