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第6話 ほじほじスカウト

第6話 ほじほじスカウト


「だから『おい』言うたが〜! 『おい』は『俺』ち意味じゃっど」


次にれいなんこさんに会ったのは、仕事場に入る前だった。

彼女…改め彼はけたけた笑っていた。

俺たちは新宿の画材屋で、頼まれた買い物をしていた。


「身体はいくらでもいじれるけど、なんでその戸籍が男になる?」


俺は思い切り顔をしかめた。


「そげんもん簡単じゃ、ぱっと見男で生まいて、男で出生届が受理さいたらそいで良か。

見た目との違いはどうとでん言い訳出来っ、まこち良か時代じゃっどなあ…!」


れいなんこさんは「スクリーントーン」の売り場で、柄物を物色していた。

今日はウールのひらっとした白いミニスカートに、淡い桃色のほわほわしたハイネックニットと、

変わらず清楚で従順そうな、ラノベの美少女ぶりだったが、

その訛りのきつい、男らしい言葉遣いはなんとかならないのだろうか。


「おいんごた『ふたなり』にゃ、田舎暮らしはわっぜ辛かと。

男で生まいて男として育っせえ、男ん心んまま、だんだんとおなごん身体になってく時、

そこにゃいじめと虐待しかなか…だから東京ん出て来た」


「ふたなり」…なるほどな。

「純粋な日本人で不純な男と女」、確かに。


「そんままでも東京はおいが事受け入れてくれっけんど、

おいは二十歳ば待っせえ、ちゃあんとおなごん身体んした。

もちろん違法な手術じゃっどん…」


れいなんこさんは言いかけて、突然にかりと笑った。


「おなごん身体に、おなごんなりは得でしかなか。

股ば開けば銭んなっ、男はみいんなおいが言いなりんなりよっ…ちょろかね。

おなごん身体に男ん心、こいぞ無双ん中ん無双」

「すでにそっちの連合で無双なんじゃ?」

「うんにゃ、おいがごた低戦力やと最下位ん近かと。ちいとガチ連合やし。

…ところで、じゃん! こん柄はどげんね?」


そう言って、彼は朝鮮人参柄のトーンを俺に見せた。


「どこに使うんだ? 背景?」

「げひひ、モブの服にな…ワンポイントでん良か」

「むひ、それならこれとか良くね?」


俺も負けじとリアルなフグ柄のトーンを棚から抜き取った。


「ぐはあ!」


画材屋の次は、ドラッグストアで栄養ドリンクの買い出し、それから…。

俺とれいなんこさんは大荷物を抱えて、あちこちを歩いた。

すれ違う男たちみんなが振り返る、さすがれいなんこ無双。

…連れて歩く分には申し分ない、男としてはプライドがくすぐられる事この上ない。

ただし彼女にするにはごめんだけどな、ほじほじ握手だし…!



「おまいら…何やこれは! どこにこんな柄使うねん! アホか!

ジェラール隊の雷光の怒りLv.25が発動!」


もちろん、これはジェラールさんに怒られてしまった。


「え〜アントワネットが漫画にちいとギャグば…なあ、まいけるん」

「まいける隊の滋養の心Lv.23が発動! だな」

「朝鮮人参とかフグとか、少女漫画にそんな年寄りくさいもん要らんが〜」


ジェラールさんはOKの出たところから、下絵してペンを入れていく。

れいなんこさんがそこに背景や効果を描き、

俺が消しゴムをかけ、墨を塗り、トーンを貼って仕上げる。

もちろん12時、19時、22時には合戦休憩を入れて。


「ふうん…まいけるんは数字以上に強かね、こいは敵びっくいじゃっどな」


すでに勝負のついたれいなんこさんが、俺の手許を覗き込む。


「まず自上げと応援系んスキルと補助で、敵ん下げはまいけるんにゃ無効、

ほんでアントワネットにも戦力ば供給け。

まるで後衛がそんまま前んおっごた…面白かね」

「うちが得点係で、まいけるんが応援係。

『ケミカルテイルズ』は二人しかおらへんしな」


ジェラールさんも攻撃を続けながら言った。


「貴様ら『けみけみ☆ているず』は連合員募集せんとけ?」

「…『ケミカルテイルズ』!」


俺とジェラールさんはれいなんこさんをなぎ倒して、淡々と合戦を続行した。


「まいけるん、430『空爆島津雨』」

「り」

「発動前防御上げ、発動で『給料即了』よろ」


奥義「空爆島津雨」発動で、ジェラールさんがいつものように大技を連発する。

れいなんこさんは遠巻きにその様子を眺めながら、鼻をほじっていた。


「アントワネットがデッキじゃ、敵強かったら大技決まらんな」

「ふふふ〜そん時のまいけるん! まいけるんのデッキはうちと系統が真逆や」

「もちろん敵ん下げはまいけるんにゃ無効。

低戦力やから、敵もまいけるんが事誰もマークしよらん。

つまい、いつでん最高んダメが通りよっダークホース…欲しかと」

「は?」


ジェラールさんが眉間にこぶを作ると、れいなんこさんはがばりと立ち上がった。

着ていたスカートは脱いであり、下はパンツだけだった。

それも清楚さとはほど遠い、黒いレースの紐パンだ。

…頼むから上に何か穿いてくれ、俺も顔をしかめた。


「まいけるんが事、うちん連合に欲しかと!

連合で育ててみたかと、きっとわっぜ強か前衛んなっど…!」


下半身パンツ一丁のれいなんこさんは、胸を張って声高らかに宣言した。

ジェラールさんがそれを上から、分厚いファイルで叩いて沈めた。


「れいなんこ、いくらなんでもそれはムリやろさあ」

「ムリやなか! こいでんおいは『MA☆ロマンスシミック』が盟主補佐! 勧誘担当ぞ!」


その連合、俺でも知っているぞ…。

このゲームでは「クラブLOVELY」と「MANIA CLUB」が、圧倒的な二強だが、

「MA☆ロマンスシミック」はそれに次ぐ、第3位の連合だ。

二強の牙城を崩すのは、この「MA☆ロマンスシミック」しかないと言われている。

れいなんこさんは突然、俺の手をむんずとつかんだ。


「まいけるん! どげんね、『ロマンスシミック』に来んね!」

「ぎゃっ!」


すごいスカウトだ、でもほじほじした手…!


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