第5話 ラノベの美少女
第5話 ラノベの美少女
「レイにゃんこ」…ジェラールさんが言っていた、あの「れいなんこ」!
戦力450万超えの、あの「れいなんこ」…!
「あ、今開けます!」
俺は気を取り直して玄関のドアを開けた。
「や」
するとそこには小柄な美少女が立っており、二重に驚かされた。
まだ高校生ぐらいの年齢だろうか、まず二十歳にはなっていないだろう。
ミルクのような白い肌に、ストレートの長い黒髪と大きな黒い目がよく映える。
服装も全体に白っぽくて柔らかく、フレアスカートと薄手のニットに、
白のケープ付きコートで、清楚かつ上品だ。
いかにも従順そうな様は、まるでラノベの世界から抜け出たようだ。
これが嫌いな男などそうはいないだろう。
男ならこういう美少女を奴隷ちゃんにする事を、一度は夢見るはずだ。
「来たあ! れいなんこ参戦! 早よ上がりい〜早よ上がりい〜」
奥からジェラールさんの声がする。
「上がっで」
れいなんこさんは俺の脇をすり抜けて、奥へと上がり込んだ。
「アントワネット、貴様がデッキあいからどげんした?」
「あかん〜忙しいて全然いじられへん」
「よし、おいが直しちゃっ。スマホ出さんねコラ」
れいなんこさんはコートを過ぎ捨てると、どかりと床にあぐらをかいた。
そして灰皿を引き寄せわかばに火を点け、くわえたばこでスマホをいじり始めた。
その空いた片手で鼻をしきりにほじる。
これがラノベの美少女か…従順な奴隷ちゃんか。
「心配すっでなか。こいでん21じゃっど、ちゃんと成人しちょっ」
俺がショックに固まっていると、れいなんこさんはたばこのフィルタを噛んでにかりと笑った。
ジェラールさんもにやにやとした。
「どや? まいけるん、れいなんこは大ショックやろ〜」
「あ、ああ…驚いたね」
「ははーん、こいがアントワネットがとこん『まいけるん』け。
おいは中屋敷レイ、まいけるんも『れいなんこ』で良かど」
れいなんこさんは鼻をほじった手で握手を求めてきた。
これが美少女からの握手…ドン引きだ!
「ジェラール隊の怒りのペンLv.30が発動!
れいなんこ隊のほじほじ握手Lv.21を阻止した!」
ジェラールさんは机の上のペンをぴぴっと投げて、ほじほじ握手を阻止した。
忍者のくないかよ、れいなんこさんは壁にくぎ付けになった。
「さらにジェラール隊の磔の刑Lv.20が発動!
れいなんこ隊の動きを封じた!」
「ちっ」
れいなんこさんはペンを引き抜くと、しぶしぶ洗面所へ手を洗いに行った。
戻って来て、改めて初めましてと握手を交わす。
「…で、れいなんこさんは何しに来たんですか? 確か次の修羅場からって…」
「もちろんまいけるん見にじゃっど。
まいけるんはアントワネットがとこん唯一にしっせえ、大事ん子ち言いよっし。
こいは見逃せんち思てな…さ、まいけるんもスマホ出さんね」
れいなんこさんは指をもぞもぞといやらしく動かした。
「ちゃうねん、今日はまいけるんに背景ん簡単なとこまで覚えさしたいねん。
とにかく来月もこの連合『島津まゆり』は後衛が足らん。
背景はれいなんこのんが絶対上手いやろ、ほんでな」
「り。ついでに貴様ら『けみけみ☆ているず』が合戦も、おいが横から口出しちゃっ…」
「…『ケミカルテイルズ』!」
俺たちの突撃で、れいなんこさんはぼこぼこになった。
「まいけるん、コンボグッジョブ」
「ジェラールさんこそ、さすが古参連合員同士」
しかしれいなんこさんの背景は上手かったし、指導もわかりやすかった。
まったくの素人の俺でも、彼女が帰る頃にはそれっぽく描けるようになってきた。
れいなんこさんは仕事があると、夕方4時頃には帰って行った。
「れいなんこはここ以外にもかけもちでアシしとる。
元々うちの師匠に当たるせんせんとこのアシ仲間やってん。
うちはプロデビューして独立したけど、れいなんこはプロのアシてとこやね」
彼女が帰ると、ジェラールさんが言った。
プロのアシスタントか…どうりで背景も上手いはずだ。
どんな視点からだって描けるし、デッサンにも狂いはない。
「あとな、れいなんこはデリヘルの仕事もしとるんよ」
「は?」
「すごい高級店やから、まいけるんみたいな一般人やとまず縁はないと思う」
「だろうね」
「けどな…まいけるん、れいなんこに誘われても乗ったらあかんで」
ジェラールさんは突然真面目な顔になった。
どういう意味だろう、俺らはそんな関係じゃないはずだ。
「れいなんこはする時いろんなクスリ使ことる、盛られるで」
「それ逆じゃね? 普通は男が女に盛るもんだろが」
「あ、れいなんこが女なのは身体だけ、心も戸籍も男や。
そやから何も問題あらへん、あーんしん」
「いや、そこは大問題にしろよ」
男の娘…でもなさそうだな。
「てかさ、あれはどう見ても女だろ。
脱がして脚開かせても女、男の直感だ…どうだ!」
「そやから身体は女、盛られてもええならいっぺんさしてもろたら?
売りもんやから、タダ言う訳にはいかへんやろけど、
まいけるんなら、まあ割り引きぐらいはしてくれるかもな」
椅子から離れて、ジェラールさんは床に寝転んで大きくのびをした。
そうしてそのまま足先で俺の脚の間を撫でて、その変化を笑った。
「…うちらは不純な日本人やけど、純粋な男と女。
れいなんこは純粋な日本人やけど、不純な男と女…ただそれだけの事」