第16話 連合合併
第16話 連合合併
「クラブLOVELY」と「MANIA CLUB」の二強が合併する…。
これは「戦国☆もえもえダンシング」にとって重大事件じゃないか。
「いいね。フランクが言わなきゃ、俺らから言おうとしてたところだよ」
「MANIA CLUB」の盟主である、みつぐさんが真っ先に賛成を出した。
みつぐさんは小柄だし、服装こそデニムに赤いシャツと若いけどもうだいぶ歳だ。
還暦も近いんじゃないだろうか。
まゆりせんせも賛成し、続けた。
「うちらしょっちゅう連合の箱変えてるから、母体はフランクさんとこでいい?」
連合の箱は古い方がいい。
連合員に与える役職や、イベントの敵などの選択肢が多いからだ。
「あ、それは俺らもおんなじ。困ったな…どうするフランク?」
「クラブLOVELY」の前衛である和田さんが、安田の兄さんに視線を流した。
和田さんは40歳前後で、俺やジェラールさんと同年代らしい。
もちろんどこからどう見てもチャラついた遊び人で、とてもかたぎには見えない。
ホストクラブにいても、何ら不思議ではない。
安田の兄さんは俺とジェラールさんの前に出た。
「ジェラールさんとまいけるん、『ケミカルテイルズ』はサービス開始からの老舗連合だ。
その上18人分枠が空いている、俺らを受け入れてくれないか?」
「え、いいよ〜」
ジェラールさんはあっさりと承諾した。
「ちょっ…ジェラールさん!」
「まいけるん、だめかな? レイから聞いているよ。
『ケミカルテイルズ』の実質の盟主は、まいけるんだって」
「えっ…」
戸惑う俺の脇腹をれいなんこさんがちょんとつついた。
見た目には出なくても相当飲んでいるのか、近づくだけで強烈に酒臭い。
「まいけるん、前に言うたが〜。『MA☆ロマンスシミック』に来てくいたら、
そっからフレ連合に短期留学ん出しちゃっち…。
そん『クラブLOVELY』と『MANIA CLUB』ん方から来てくれっ、
紹介すっ手間が省けて良か、受け入れたりい」
…あれは『クラブLOVELY』と『MANIA CLUB』の事だったのか。
彼らは運営のサクラ連合、このゲームが仕事。
彼はなんとすごい連合に、俺を紹介しようとしていたのだろう。
そして俺を教育して、ゆくゆくは代わりの人員とするつもりだったのだ…。
「安田の兄さん、俺は辞めた人たちの代わりにはなれない。
『まいける』は『まいける』、ある朝突然連合に取り残されただけの低戦力。
前に立つ後衛…それでも良いなら」
「ありがとうまいけるん、二人の事は俺らが責任もって育てる。
ジェラールさんは戦力を上げれば、連合の大きな得点源となるだろう。
そしてまいけるん…俺らはまいけるんを、きっと最強の低戦力にしてみせる」
「最強の低戦力」て…何だよそれ。
俺は思わず吹き出してしまった。
そして、手を差し出した。
「よろしく、安田の兄さん…いや、フランクさん」
それからも話し合いは遅くまで続いて、
合流の時期は次の合戦イベント終わりとする事、
連合名は「ケミカルテイルズ」のままで行く事が取り決められた。
「盟主はどうする? ジェラールさんのままで良い?」
「MANIA CLUB」の後衛筆頭である「カリ」さんが発言した。
カリさんは俺やジェラールさんより、ちょっと上ぐらいの年齢だろうか。
スーツ姿だったのか、腕まくりをしたシャツに青のネクタイ、縁なしの眼鏡で、
「暴力団事務所お抱えの悪徳弁護士」といった風情だ。
「まいけるんの方が明らかに向いてるけど、ここはジェラールさんがいいだろうな」
「なるほど、そうやってまいけるんを隠しとくって訳ね」
まゆりせんせが太い腕を組んで、安田の兄さんにうんうんと頷いた。
「ぱっと見、まいけるんは古参なだけで、補佐をやらされてるただの寄生。
なぜ前にいるのかまったくもって謎な役立たず。
…ところが! まいけるんは攻撃の起点にして、能力の供給源。
そして! 低戦力から繰り出す大技による大得点!
よーじさんやX-DATE、同じタイプの前衛は前にもいたけど、
低戦力のまいけるんならノーマークで大得点、良くね? 」
安田の兄さんは目をきらきらさせて、みんなに熱く語った。
寄生だの、役立たずだの、辛辣だな…。
「いいね、みんな戦力ばかりに目がいくけど、こういうプレイもあるって、
新規や低戦力者への救済にもなるし、スキル目当てでガチャも売れるよね」
「クラブLOVELY」の盟主補佐で、広報担当のよっしーさんがにやにやした。
彼は30過ぎぐらいで、髪型もジーンズにシャツの服装も至極無難で無個性、
彼もまたヤクザなのだろうが、どこにでもいそうな普通の兄ちゃんだった。
無個性なのは、広報という役割だからあえてそうしているだろうか。
「まいけるんがエースになるなら、軍師はまゆり姉さんで決まりだよね?」
そう言う新川さんもよっしーさんと同じ年頃で、きりっとしたイケメンなのはいいが、
それは顔だけで、坊主頭にヒップホップ系のだぶついたファッションをしており、
まったく年齢と女受けを考えていなさそうだ。
「まゆり姉さんはもちろん軍師だよ、でもそれは役職だけ」
安田の兄さんがそう言うと、みんなどよめいた。
「なんでさ?」
「軍師大事じゃね?」
「役職だけてどういう事?」
「軍師は要らへん」
ジェラールさんがぽつりと言った。
食事会も終わったというのに、まだしつこく食べてやがる。
「は?」
俺は彼女の手から、手羽先のからあげを取り上げた。
「ああん! だってうちら、初心者ちゃうやん?」




