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第14話 あらびきフランク

第14話 あらびきフランク


年齢と体型に似合わず、デニム生地のミニスカートに、

濃いピンクのキャミソール、濃い化粧、何度も染めて痛み切った髪。

これがあのジェラールさんの母…!


「悪りかけんど、ジェラールさあは出かけよった…なあ、まいけるん?」


れいなんこさんがきつい目でとう言い放ち、俺の方を向いた。


「ああ…朝うちに挨拶に来たな、ちょっと旅行行くって」

「どこへ? なあ、教せてえや! 金がないねん、今すぐ金が要るねん…!」


ジェラールさんはここを彼女に教えてなんかいないはずだ。

それなのにどうやって探し出したのだろう。

恐ろしい執念だ。


「さあね…」


俺はオートロックを解除し、れいなんこさんを先に通した。

当然、ジェラールさんの母親も中に入ろうと、身体をねじ込む。

俺は彼女を突き飛ばし、その隙に中に入って扉を閉めた。

オートロックは再び施錠された。


「れいなんこさん、ジェラールさんをしばらく預かってほしい」

「もちろんじゃっど…良か宛てがあっ、迎えば呼ぶ」


エレベータの中で俺とれいなんこさんは小さな会議を開いた。


「まいけるんも一緒について来んね」

「どういうところ?」

「上杉会ち極道ん会長宅じゃっど、武田んじじどんと安田んあにょがいよっ。

安田んあにょはおいが後見人…おいが家族んごた人」

「なるほど、そこなら確かに安全だ」


れいなんこさんは「安田んあにょ」に電話をかけた。


「…おおきにあにょ、待っちょく。車は裏ん回して欲しかと。

おいとアントワネットが彼氏んまいけるんが連れ出す、貴様ら上杉で援護ば頼む」

「はあ? なんで俺が彼氏なんだよ」


そんな事気にしている場合じゃない。

俺たちは自宅の方へ戻り、れいなんこさんがジェラールさんに着替えさせ、

俺が滞在の支度をする事にした。


「どこへ行くのん? 旅行なのん? でも日に3度の合戦が〜」


ジェラールさんは服の中でもぎゅもぎゅ言ったが、

れいなんこさんも俺も、詳しい事情は話さなかった。


「大丈夫、おいたち『けみけみ☆ているず』は今から強化合宿すっから」

「ええ〜?」


れいなんこさんがジェラールさんにそう言い聞かせている間、

着替えや下着類、それから仕事道具を大きなかばんに詰めてやる。

もちろんスマホと充電器も。

そしてジェラールさんの財布や、俺が無理矢理作らせた預金通帳、

印鑑やクレジットカードなど貴重品も一緒に。


れいなんこさんのスマホが鳴って、俺たちはジェラールさんを連れ出した。

正面玄関を避けるため、マンションの横の非常階段を使い、

鍵のかかった柵をひとりずつ乗り越える。


「アントワネット、早よ登らんね!」

「ああん〜」

「まいけるん、アントワネットが尻持ち上げてくいやい」


俺がジェラールさんの尻を、下から持ち上げて押し出し、

れいなんこさんが柵の外で抱きとめて、ようやく彼女を柵の外へと出す事が出来た。

そこにはれいなんこさんの頼んだ迎えが二人待っていた。

「安田んあにょ」の手下らしい、どこからどう見ても一般人じゃない。

本物のヤクザなんて初めて見た…。


「まずはジェラールさんをよろしくお願いします」


俺は彼らにジェラールさんを頼み、最後に柵を乗り越えた。

数メートル先に黒塗りの立派な車が停まっている。

ダッシュで飛び乗ると、車は勢い良く発進した。


「あ、安田です。いつもうちのレイがお世話になっております」


信号待ちで、運転をしている若い男が俺を振り返って笑いかけた。

まだ30代半ばぐらいだろうか、細いけれどきれいに筋肉のついた良い身体をしている。

鈍い青の長袖のてろてろしたシャツを着て、長めの黒い髪は後ろに流してあった。


「道村マイケルです、こちらこそお世話になります」

「マイケル…俺も在日だから仲間だな。俺は朝鮮系だけど、まいけるんは?」

「俺は台湾系です、母が台湾人」

「んじゃ、吉富さんと同じだ、吉富さんも台湾系の日本人なんだよ。

…あ、吉富さんはね、うちの上部組織の顧問やってるすんごい偉い人。

うちで困った時は、俺と武田さんが吉富さんに紹介するよ」


顔立ちこそ涼しげだが、安田の兄さんは明るく気さくな性格らしい。

道中ずっと上杉会の成り立ちやら、いろんな話をして俺らをなごませてくれた。


「あにょ、着いたらさっそくこん二人に特訓ばしてくれんね。

アントワネットは戦力はそこそこじゃっどん、スキルが偏っちょっ。

まいけるんは面白かデッキじゃっどん、まだ戦力が低かと」

「オッケー、今夜連合のやつら集めるよ。歓迎会しなくしゃ」


あれ…? 安田の兄さんもあのゲームを知っている?


「あのう、安田さんもあのゲームを?」

「当たり前じゃっどね、『戦国☆もえもえダンシング』は上杉会ん運営じゃっど…!

実はこん事知ったとは、おいも最近なんじゃけんど。

こんおいにも隠しちょったち許せんでね」


安田の兄さんは「これはヤクザのしのぎ」だからと、照れくさそうに笑った。


「いやね、甘粕さんて前にいた幹部のしのぎだったんだけどね、

抗争で彼を含め、当時の上杉のほとんどが亡くなっちゃってさ…。

生き残った俺と武田さんで、ソーシャルゲーム事業含めみんな引き継いだのよ。

若い俺が会長で、じいさんの武田さんが相談役でさ…あっコラ! レイ!」


助手席のれいなんこさんが彼の胸ポケットからスマホを抜き取り、

ゲーム画面を呼び出して、俺に手渡した。


「あにょもまいけるんに自己紹介せんといけんが〜」


画面はプロフ画面だった。

「あらびきフランク」…戦力は500万を超えている、これはすごい。

…そして連合「クラブLOVELY」盟主にして無双。


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